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口紅 [lipstick、 rouge]

リップカラーまたはリップスティックともよばれ、唇に色をつけ、輝きやつや感を与え、唇を魅力的に見せるメークアップ化粧品である.口紅は古来から使用されており、ギリシャ・ローマ時代には植物などの色素を唇に塗布していたといわれている.現在のような、油と色材などからなるスティック状の口紅は、第一次世界大戦ごろに登場してきたものである.最近では、唇を彩色するだけではなく、唇を乾燥から守り、荒れを改善するようなエモリエント性の高い成分を配合したり、塗布することで唇の血行を改善し、健康的な唇にするようなトリートメント口紅も製品化されている.口紅の種類は、主流である棒状で固形のリップスティックや、固形状の口紅をパレットに流し込んだパレットタイプ、唇の輪郭を描き口紅のにじみを防止する鉛筆・繰り出しペンシルタイプのリップペンシルなどがある.また、最近は液状やクリーム状で、チューブやボトルに入ったリップグロスがあり、おもに唇にぬれたようなつややかな輝きを付与するために使用される.
処方・原料
口紅の処方は、油性原料と色材が主成分である油性タイプが主流となっており、そのほかに、油性タイプに水やグリコール類が少量配合された、油中水(w/o)型乳化系の乳化型口紅などがある.
(1)油性原料
オイル(油性液状原料)や固型状油性原料(ワックスなど)、その中間のペースト状原料に大別され、オイルやペースト原料は、のびやつやなどの使用感に影響を与える.固型状のワックス原料は、口紅の形状をつくり出し、スティックやペンシルなどの剤型に適した硬さを与える.また、油性液状原料には、ひまし油などの天然由来物や、脂肪酸と高級アルコールなどの有機合成によってつくられる合成油(エステル油)、炭化水素油などがある(表).
(2)色材
口紅の調色にはおもに有機合成色素(タール色素)、無機顔料(白色顔料など)、真珠光沢顔料(パール剤)、その他天然色素が用いられる.赤色4号や赤色201号などのタール色素は、法令で定められた化粧品用タール色素のグループIおよびIIのものが使用できる.無機顔料は酸化鉄(べんがら黄酸化鉄黒酸化鉄)や白色顔料の酸化チタン*が汎用されている.真珠光沢のような輝きをもち、特殊な色彩効果を付与する真珠光沢顔料には、魚鱗箔*(ぎょりんぱく)や塩化オキシビスマスなどがあるが、主流は二酸化チタン被覆雲母(雲母チタン)が用いられている.天然色素には、古来から使用されているカルミンやカルサミン、クチナシなどがあり、タール色素に比べ発色は劣るが、天然系であることから根強い人気がある.
構造・組成
一般的な口紅は、固体成分のワックス結晶が板状の層となり、いくつも重なりあってできた細かい格子状の隙間に、オイルと色材の混合物が入り込んだ構造になっている.このワックス結晶でつくられた格子は、唇に塗布するときの摩擦で簡単に崩れ、流動性のある油性顔料と色材の混合物が唇に均一な油性被膜を形成する.このような構造から口紅は見た目は硬そうであっても、唇塗布時にはなめらかで軟らかい使用性となる.また、この構造は簡単な力で固体の状態から液体の状態に変化する性質をもつ.この性質はチキソトロピーとよばれ、口紅のほかゼリーなどの食品などにも利用されている.油性タイプの口紅の成分組成は、ワックスが15〜25%、オイルが65〜80%、色材が5〜15%であり、さらに微量の薬剤や香料が含まれる.ワックスの配合量が増えると口紅が硬くなり、スティック状の剤型には折れにくくなってよいが、使用性は悪くなる.一方、粘度の低いオイルの配合量を増やすと、なめらかでのびのよい使用感となるが、折れやすくなる.また、色材(体質顔料)の配合量を増減させることで、つやのないマットな質感や透明感のあるシアーな質感が得られる.
品質管理
口紅の品質上起こりやすい問題には、発汗発粉(ブルーミング)があげられる.これらの問題は、口紅が油性原料を中心に構成されているため、高温に弱いことに起因する.発汗やブルーミングによる口紅の品質劣化は、成分中の油性成分の腐敗や酸化で起こるものではないため、使用にさいしては問題ないが、外観や使用感を損ねる.最近では技術の進歩により、これらの問題は改善されてきている.
(1)発汗(sweating)
口紅の表面がぷつぷつ汗をかく現象(図)で、アイシャドー、ファンデーションなどにもよくみられる.発汗の原因は、結晶格子内から油分が膨張して固形表面へ移動し、油滴として現れる、いわゆる固液分離の現象である.また、色材が配合されていることから、長期経時で外気中の水分を吸湿するため、ろうによって形成された網目構造中の油分がチャネルを通じて押し出され、発汗となって表面に現れると考えられている.発汗はその製品の組成によっても大きく影響を受けるが、周囲の温度上昇に伴って起こり、約30℃くらいから透明の液状油分(汗)が出てくるものもあり、さらに、温度が上がると汗の滴は大きくなり、その数も増えてくる.この状態から逆に温度を下げれば、出てきたところ(チャネル)から引っ込むことが多いが、発汗痕を残す場合もある.
(2)発粉(ブルーミング)
口紅の表面が白っぽい粉で覆われた状態になる現象のことをいい、この粉は成分中の固体の脂肪酸や色素などである.これは、チョコレートにも見られる現象で、温度が上昇し発汗した後に析出する.
塗布色(applied color)
口紅を塗布したさいの唇上での色みのこと.発色のよい口紅とは、口紅の外観色のイメージどおりに色みがはっきりでることである.口紅の役割は、唇に好みの色調を付与し、顔全体の印象を効果的に演出することにあるので、発色の良し悪しは使用時の満足感を左右する非常に重要な要素である.口紅の発色を高めるには、まず色材の配合量を高める方法が考えられる.しかし色材は、その種類によってさまざまな性質をもつため、使用する油分との相性を十分に考慮しないと、色材の疑集による色のくすみや発色の低下を招く原因になる場合がある.その結果いくら色材を多く配合しても、はっきりとした美しい発色にならないばかりか外観色もくすんでしまい、塗布色と仕上りのイメージが大きく異なってしまう.また、相性のいい油分を選ぶことにより十分な発色が得られたとしても、色材の配合量が多すぎるとのびが重くなったり、つやが十分でなくなったりする場合がある.これらの問題を解決するため、色材自体の分散性を向上させて、表面積を大きくすることにより一粒一粒の色材の力を最大限に発揮させようとするさまざまな研究がなされてきている.たとえば、色材と二酸化ケイ素(シリカ)、ナイロンなどの体質顔料とをあらかじめ複合化させる方法(スペーサー効果)などがある.色材表面の性質を改善する方法もその一つで、近年では機能性ナノコーティング色材を用いることで分散性を向上させる技術が開発されている.この技術によって口紅基剤中での色材の分散性が高まり、高発色かつ外観色と塗布色との差の少ない口紅が開発されている.
にじみ(blotting)
口紅を唇に塗布したとき、口唇周辺の微細なしわに、口紅油分が毛細現象により入り込むこと.とくに縦じわの多い人によく見られ、口紅がにじむと輪郭がぼやけた印象になる.防ぐには、リップペンシルなどで輪郭を描いてから口紅を塗布することが有効である.(上園美智子、南孝司)

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