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経皮吸収 [percutaneous absorption]

皮膚に外用された物質が皮膚組織中に透過する過程と、皮膚組織を経て血管系、まれにはリンパ系に至る過程を含めた現象.ある物質がどのような状態で一定時間に一定面積の皮膚表面から皮膚中に移動し、その後どこに行き、どのような代謝を受け、貯留または排泄されるのか、そして最終的にはどのような局所および全身作用を発現するのかまでをも含めた概念を表す言葉であるといえる.化粧品は皮膚に直接塗布するものであるため、化粧品中に含まれる物質がどのように皮膚を透過するかという経皮吸収の評価は、化粧品の有用性のみならず安全性を議論する上でも非常に重要なポイントである.歴史的には、19世紀末ごろまでは気体以外のものが皮膚を透過するかは明確ではなかったが、その後20世紀初めごろには皮膚を透過する物質の存在が証明され、たとえば水溶性物質に比べて脂溶性物質のほうが透過しやすいことなどが明らかにされた.その後現在に至るまで経皮吸収の物理化学的メカニズムの解明と、物質の性質との関係、皮膚の性質や環境の影響などに関する研究が行われてきており、全体像が徐々に明確になってきた.
メカニズム
まず経皮吸収の経路だが、毛嚢や皮脂腺からの吸収と表皮からの吸収の2種類に大別される.皮膚表面は多くの微細な開口部を有している.それらは毛嚢、汗腺口、皮脂線などであり、これらの開口部を通じて物質が吸収される.一方、ケラチノサイト(表皮角化細胞)あるいは表皮の細胞間を通過する経路も存在する.ただし毛嚢や皮脂線など開口部の透過は、拡散係数は非常に高いものの皮膚全体を占める面積としては非常に小さいため、初期には影響が大きくとも、全体の吸収に対する寄与は経表皮経路が中心であると考えられる.経表皮経路における物質の吸収に対してバリア機能を有しているのは、皮膚表面および角層細胞間の脂質あるいはケラチンの構造体であると考えられており、また経皮吸収性を左右する要因にはさまざまなものが知られている.まず物質の性質では、脂溶性がある程度までは高いほど吸収されやすく、分子量が1,000以上の高分子では吸収量が少なくなる.こうした知見をもとに、物質の有機溶媒に対する溶解度と水に対する溶解度の比(分配係数)と分子量、あるいは融点などから経皮吸収性を計算式によって予測する試みも行われている.なお、同一物質でも溶媒の違いによって経皮吸収性は大きく異なることが明らかとなっている.次に皮膚による違いであるが、動物の種類によっても皮膚の透過性に違いがあることが明らかになっており、具体的にはウサギ、モルモット、ヒトの順とされる.したがって動物での試験結果からヒトでの経皮吸収性を予測するには、こうした種差を考慮する必要がある.また、同一個体であっても部位による相違が存在する.ヒト皮膚を用いた薬剤(ヒドロコルチゾン)の経皮吸収性は、陰嚢部がもっとも高く、以下、下顎、前額、腋窩(えきか)、頭部、背部、前腕、手のひら、足底といった順になっている.こうした部位による違いは主として角層の厚さや毛嚢の密度の違いに起因しているとされるため、テープストリッピング界面活性剤などにより角層バリア機能を損傷させたり、乾癬やアトピー性接触皮膚炎などの皮膚疾患部のようにその機能が低下している場合、経皮吸収性は通常よりも上昇すると考えられる.
測定法
実際に経皮吸収量を測定する方法は、大きくin vivoと in vitroの二つに分けることができる.in vivo経皮吸収試験の利点は、実際の生体を用いるために生理学的・代謝的に信頼性の高いデータが得られるということ、欠点としては、種差の問題や動物愛護の観点からの問題があげられる.具体的な操作の手順としては、人工的に制御された環境下において、必要ならば刈毛したラットなどの動物の皮膚に被験物質を適用できるようリングなどを固定し、皮膚上に被験物質を均等に塗布して一定時間後に吸収量を測定するというものである.一方、in vitro経皮吸収試験は、試験の再現性の高さや簡便性および動物愛護の観点からその重要度が増している試験法である.方法としては、摘出されたラットやヒトの皮膚をFranz型のガラス拡散セルにセットし、上層に被験物質を投与して緩衝液を入れた下層のセルおよび皮膚中の被験物質量を測定するものである.ただし両試験法ともに、被験物質の適用量および適用時間、溶媒、皮膚の種類、定量法など検討すべき項目は多い.(足利太可雄)

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