【書評】
平和な世の中が続き、平均寿命が延びると化粧品の社会的役割は一層大きくなっている。化粧品は一般に女性を対象としたものが多いが、近年は男性用の化粧品も多くの分野で拡大してきている。本書は、総論編で化粧品に関連した事項を総合的に取り上げ、説明した後、各論編では辞典としての役目をもたせ、多数の専門用語の意味を簡単にして迅速に調べられるよう工夫がなされている。一口に語るなら、本書は化粧品の総説書と辞典のハイブリッド事典である。しかも、総論では最近の知見や情報が盛り込まれ、後半の辞典では多様な事項について平易に、しかも科学的に一般読者でも理解しやすいよう説明されている点が素晴らしい。
総論編で読者を楽しませてくれるのは、化粧の歴史である。化粧そのものだけでなく化粧に対する人々の考え方の移り変わりが時代背景との関係でまとめられている。化粧が常に社会の変化や科学・化学の進歩とともに変化してきたことがよくわかり、今後の化粧の方向性を考える資料となると思われる。化粧は、健康な人の皮膚や疾病を患っている人の皮膚にも施すものである。化粧効果を理解するためには、皮膚の構造や機能についての充分な知識が必要であるが、本書では皮膚に関する最新の科学情報が紹介されており、化粧の有用性を一般に広めるには欠かせないところである。
活性酸素が皮膚を含めた老化に重大な影響をもつことが近年、医学・生物学分野で明らかにされてきている。したがって、活性酸素が皮膚の機能や構造に与える影響、さらには光老化における役割について総論編あるいは各論編でもう少し詳しく説明した項目があれば、より充実した事典になったと思われる。
化粧は皮膚の働きを変え、美しく、また若々しく見せるための手段であると同時に、化粧した本人は精神的な安らぎや満足感を味わうことができる。本来の化粧品は法的規制のため、機能性をはっきりと提示することができない弱点があるが、最近は明らかに細胞レベルや皮膚組織で機能や構造に変化を与えるものが多数市販されている。化粧品の有用性をより広め、国民の健康に役立たせるためには、製造者の責任において、各々の化粧品についてはっきりした機能について説明が可能になるよう、法制度の改正に向けて、化粧品関係者が強く働きかける努力が必要である。そのような社会的な動きを支援し、加速させる文面が本書には見られないのは残念である。
総論編では所々にQ&Aが挿入され、本書を読む際に肩が凝らないよう工夫がなされている。堅さがつきまとう事典にとっては何となくほっとするページとなっている。ただし、一部のAの内容に説明不十分で誤解を招くものがあるが、全体としてQ&Aが入っていることが本書を手にとりやすくしているといえよう。
皮膚科医の立場から見ると、本書には純皮膚科学の教科書や専門書には見られない特色がある。たとえば化粧品と関係の深いニキビ(痤瘡)の項を見るとニキビの成因、症状などの次に、ニキビができている人やできやすい人用の化粧品について詳しく1頁半にわたって多面的に説明がなされている。皮膚科医にとっては大変有用な情報を提起してくれている。現在、日本皮膚科学会においても、美容皮膚科学の領域に興味をもつ会員が増し、主要な学会においても、しばしば化粧品を含めた美容関連の話題がシンポジウムやワークショップとして取り上げられている。このような時代にあって、本書は皮膚科医にも広く読まれることと期待したい。また、化粧品関係者のみならず、医療関係者をはじめ、一般の方にも本書を辞典として座右の友にしていただくことをすすめたい。
(神戸大学医学部名誉教授 市橋正光)