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第34回「SCCJセミナー」基礎から学ぶ乳化―その理論と実践―

第34回SCCJセミナー「基礎から学ぶ乳化−その理論と実践−」レポート

【開催日】2009年9月17日(木)
【開催場所】パシフィコ横浜
【参加者数】352名

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講演①
【乳化の基礎理論】明星大学 堀内照夫先生

化粧品開発において重要な技術のひとつである「乳化」について、製品設計に必要な基本的な内容から応用まで広い視野で解説された。
内容としては、エマルション調製のための乳化技術の動向にはじまり、溶液系・分散系の物質間の相溶性の指標として、特にHLBの概念について詳しく説明された後、HLB方式による乳化剤の選定法や乳化法の決定法について解説された。さらに、エマルションの分散安定性の評価についてや、スケールアップの考え方、さらには化粧品のクレーム対応にまで話が進み、エマルション調製における基礎から応用まで幅広く、しっかり学べる内容であった。また、界面活性剤の機能発現を左右する界面活性剤の親水性/疎水性比の制御について紹介され、化粧品開発の実践に活きる講演でもあった。
((株)コスモステクニカルセンター 前野広史)


講演②
【化粧品開発に役立つ相図の基礎およびその乳化系への応用】東京理科大学 土屋好司先生

化粧品開発において重要な相図作成の基礎および、界面活性剤の相平衡を利用した乳化法について解説された。化粧品の製品開発においては、分子集合体が有する機能や構造を利用した材料設計や付加価値の高い製品開発が行われている。このことから、目的とする使用条件において界面活性剤が形成する相状態を正しく理解する重要性,相図の重要性を強く感じるものであった。相状態の具体的な判別方法として、目視観察、変光顕微鏡観察、透過型顕微鏡(TEM)観察、小角X線散乱(SAXS)測定について、それぞれ写真などを入れながら詳細に解説された。特にSAXS測定は、液晶の型を決定できるだけでなく液晶構造を分子レベルで解析できることから有効である。また、界面活性剤の相平衡を利用した乳化法として、転相温度乳化法や、転相乳化法などについても解説された。微細エマルジョンの調製方法やその原理についての解説は実務においても有効でとても興味深いものであった。
((株)コスモステクニカルセンター 前野広史)



講演③
【結晶性を制御・活用したO/W乳化技術
〜高級アルコールを用いた基剤技術からO/W乳化の基本を探る〜】(株)資生堂 岡本亨氏

高級アルコールと界面活性剤が会合体を形成したαゲル構造は、O/Wエマルションの製剤開発における安定性に大きく寄与することがわかっている。また、この会合体はエマルションの安定性を向上するだけでなく、肌なじみが良い、皮膚水分量を上げるといった有用性を併せ持つ。本講演では、O/W乳化技術の基本であるαゲルの基礎的な評価方法や物性に関しての解説や、高級アルコールを用いた新しい乳化技術の例として、低粘度のαゲル製剤の開発や巨大な油性粒子の高級アルコールの結晶化による安定化について紹介があった。高級アルコールは汎用性のある化粧品基剤であり、O/W乳化の結晶性を制御するため、あるいはその製剤の有用性を発揮するために重要な役割を担っている。本講演は、DSCやSEM画像解析といった評価結果も具体的に例示頂き、非常にわかりやすく、すぐに実践に活用できる技術情報を提供頂いた。
((株)マンダム 栗山健一)


講演④
【W/Oエマルションの製剤化技術とその応用】(株)コーセー 鈴木智樹氏

W/O型エマルションは、O/W型のエマルションに比べて、皮膚の保護効果、耐水性、独特の使用感などの利点を有しているものの、安定性を制御する方法はO/W型のエマルションに比べて少ない。本講演では、W/O型のエマルションの安定性に関する基本的な理論や、塩の添加効果や具体的な調剤技術について具体的に例示頂きながら解説された。また特に、W/O型乳化の安定化に有効と考えられるシリコーン系界面活性剤について紹介された。なかでも、三次元架橋型シリコーンゲル化剤の一種である、ポリオキシエチレンを側鎖に有する部分親水架橋型シリコーンゲル化剤は、多量の水を構造内で取り込め、広い範囲でのW/O型エマルションの乳化特性を有し高い温度安定性を示すことを紹介された。本講演では、これらの具体的な例を挙げながらその開発ノウハウを開示頂き、処方技術者にとって有益な技術解説となった。
((株)マンダム 栗山健一)

講演⑤
【界面活性剤高次会合構造を利用したメイク落としの技術】花王(株) 津田ひろ子氏

 メイク落としの歴史を変えたメイククリアジェル、メイク落としシート、さらにお風呂でも使えるクレンジングオイルなど、高機能で使いやすいメイク落としはどのようにして開発されたのか。液晶型油性ジェルでは、70%近い油剤を保持し、油性のメイク汚れをしっかり浮き上がらせることに成功した。目力メイクの流行に対応した耐水性オイルでは、油80%活性剤20%で組み合わせる活性剤を調整し、直ちに乳化が起こらないような組成を開発した。また、目の周りを多くこすることが肌負担になっていることから、こすらずに落とせるメイク落としを、バイコンティニュアスエマルション相を利用した技術で可能にした。これら全ての製剤化には、緻密に相図を作り重ねていくことが最も基本となっていた。ラストの講師御自身の製作した相図は、1つの製品を送り出すための思いが会場全員に伝わるものだったと思う。
((株)エフシージー総合研究所 久留戸真奈美)


講演⑥
【マヨネーズの魅力】キユーピー(株) 飛田昌男氏

今やマヨラー、マイマヨというほどに日本人の食生活に浸透したマヨネーズ、その由来から、昨今のメタボ意識に配慮した1/2カロリーマヨネーズ、保存安定性と容器開発など正にマヨネーズ概論。1/2カロリーマヨネーズでは、単に脂質含量を落とすと、なめらかさとコクが失われるためマイクロエマルション製法を導入、粒子を細かく均一にして油の表面積を増やしコクのあるおいしさを保つことに成功した。食感を保ちながら油量を落とすことは、コクのあるリッチな使用感を保ちながら脂っぽさを押さえていくという乳化製品の製剤化と共通する。また、安価な食品でありながら、容器には近年、酸素吸収ボトルが開発された。常にあらゆる面で「おいしいマヨネーズを届けるために」という商品開発の気持ちが伝わってくるように思われた。ディスカッション会場では新しい試みとして、カロリーを変えた3種のマヨネーズが用意され、食感と味を体感することができた。 
((株)エフシージー総合研究所 久留戸真奈美)