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第33回「SCCJセミナー」シリコーンの化粧品への応用とその将来展望〜シリコーンが創り出す世界〜

第33回SCCJセミナーレポート

講演①「シリコーンの応用の歴史、環境・安全対応と、最近の海外情勢について」
東レ・ダウコーニング(株) 近藤 秀俊氏
シリコーン産業60年の歴史において、ここ最近の20年における香粧品への用途展開の概要とグローバルな観点でシリコーン製品の多様化の流れが解説されていた。香粧品への応用は、1950年のジメチコンを活用したオムツかぶれ用軟膏から始まり、スキンクリーム、ヘアケアに用いられ、今回はその歴史が紹介されていた。特に1987年の高重合シリコーン配合した枝毛コート剤のヒットなど、現在はシリコーンなくして香粧品の機能進化を語れない程となっている。また、特許から見たシリコーンの展開、ラベル成分情報から見たシリコーンの応用、表示名から見たシリコーンの応用について解説があった。これらに加えて、自然界には存在しないシリコーンの環境・安全性上に関する講演から、シリコーンの持続可能な成長に対する演者の期待を感じられた。(ポーラ化成工業(株) 岩泰夫)

講演②「シリコーンの特性と他業種における応用事例」
信越化学工業(株) 井原 俊明氏
 他業種における応用事例の導入として、シリコンとシリコーンの違いについて述べられていた。講演においてシリコーンの持つ化学特性を製造方法、構造、特性(耐熱性、耐候性、撥水性、離型性、消泡性、耐せん断性、酸素透過性)と多岐に渡り解説されていた。中でもシリコーンの構造が無機的なSi-Oを主鎖とし、メチル基を側鎖とした無機有機ハイブリッドポリマーであるジメチルポリシロキサンについて詳細な紹介が行なわれていた。らせん構造を有し、イオン結合が約50%存在していることによる合成の容易さ、それに伴う0.65〜100万mm2/sと幅広い粘度を示すシリコーンの特異さが述べられていた。この特異さに由来する数多くの特性の発現にともない、香粧品開発における大きな可能性を示す講演であった。(ポーラ化成工業(株) 岩泰夫)

講演③「スキンケア製品開発におけるシリコーンの応用」
(株)資生堂 鹿子木 宏之氏
 化粧品に汎用されている炭化水素油やエステル油などの有機オイルと比較して、低温でも固化しにくい、同じ分子量でも粘度が低い、表面張力が低い等、分子構造に起因する種々の特長を有するシリコーン化合物について化学構造や物理的性質等の比較、使用性面でのSpreading Valueや摩擦係数、オクルージョン効果、溶解性等の面から詳細に解説された。
 スキンケア化粧品として最も嫌われるべたつきの程度を測定するローラー型プローブを用いた摩擦感テスターのべたつき評価法は興味ある話題であった。スキンケア商品におけるシリコーンの役割を種々の特長・特性と関連付けて解説された。続いて、シリコーン系界面活性剤の基本構造と置換基による特性や挙動の解説及びこれから開発されて行くであろう、新たな機能を付与された多様なシリコーン化合物のその新たな機能、感触、使用性面での可能性を考えて行く過程を示して頂いた。(オッペン化粧品(株) 中川要)

講演④「メイクアップ化粧料の要求品質具現化におけるシリコーン化合物の役割」
(株)コーセー 鈴木 一弘氏
 メイクアップ化粧料に求められる有用性は「美しく見せる」事であり、重要な要求品質はそれを使用した際に「美しく見える」ことである。その要求品質である「仕上がりの美しさ」と「化粧持続性の向上」という問題点について、克服すべき点の具体的な解説からそれぞれの問題点に関与するシリコーンの特性を解説して頂いた上で、更なるシリコーンの能力発揮への課題とその解決策を様々な事例を示して頂いた。そして過度の展延性を是正するための構造粘性付与、シリコーンを肌へ固定するための皮膜形成性能付与という観点より、考えられる分子構造デザイン、その具現化方法の考え方、さらに応用事例と順を追って非常に判り易く解説して頂いた。既存のシリコーン化合物の変性という考え方から、他の素材の親シリコーン化及び他の素材とシリコーンの融合という視点を変えた次の段階への考え方も教示して頂いた。(オッペン化粧品(株) 中川要)

講演⑤「髪を美しくするためにシリコーンが果たす役割」
ライオン(株) 景山 元裕氏
 最近の毛髪研究結果を交えての解説は髪の科学の奥深さを感じ、ブラッシング、ドライヤー、ヘアーアイロン等の髪のセッティング、外出時に日光を浴びること等の日常生活シーン、そしてカラーリングやパーマ等の各シーンでの髪の扱われ方とその結果の物理的、化学的ダメージヘアの写真を交えての講演は非常に興味深いものであった。毛髪の感触改善や外観を美しく見せる等、ヘアケアにおけるシリコーンの多様な役割、機能について解説すると共に、ダメージを受けたカラードヘアと健常毛とのシリコーン吸着挙動の違いの解説、親水性になっているダメージヘアに対してシリコーンの吸着制御の考え方、そして親水/疎水性バランスを考慮して設計した新規高分子の紹介では分子設計とその分子の持つ特性の考え方を教授して頂いた。髪の研究の進歩とシリコーンの進歩がもたらす美しい髪、思い通りのヘアスタイルを楽しむことの出来る次世代を期待する講演であった。(オッペン化粧品(株) 中川要)

講演⑥「高機能口紅の開発−「つや」と「二次付着レス効果」の両立にむけて−」
(株)資生堂 金子 勝之氏
 カップなどへの色移りの防止(二次付着レス効果)は、つやと背反する特性で、これまで被膜剤として揮発性油剤とともにシリコーン樹脂を配合すること検討され、二次付着レス効果が得られたが、油剤揮発後の塗膜は顔料体積が大きく、仕上がりがマットであった。つや付与のため不揮発性油分の増加を検討したが、皮膜の柔軟性の不足により、使用時、唇の伸縮で長時間のつやは得られなかった。そこで柔軟な被膜と塗膜表面に色材を分散しない撥油性の透明な油分をしみ出させるモデルを考えた。油分としてフッ素変性シリコーンオイルを、変性率を比較的自由に調整できるシリコーン骨格を利用して、フッ素含有側鎖とその比率を変えて種々合成し、汎用性油分と相溶しない領域の広さからC8F17を選定した。設計通り、親油化無機色材、有機色材とも分散せず、柔軟性を有するアクリル酸エステル/メタクリル酸エステル/ジメチルポリシロキサングラフト重合体の分散型被膜剤とともに用いることで、ツヤを保持し優れた二次付着レス効果の口紅が得られた。(ライオン(株)藤田早苗)

講演⑦「シリコーンによる顔料の表面処理とその応用」
(株)カネボウ化粧品 遠井 慎吾氏
  メイクアップ化粧料を念頭にシリコーン表面処理顔料の概説と、この技術を応用して顔料の光学特性を制御した「くすまない表面処理顔料」の開発事例を示した。一般的にはメチコーンによる表面処理が広く知られ、顔料と混合、加熱することで、架橋と、顔料表面との結合により、撥水性や滑らかな感触が発現する。他にシランカップリング剤による導入などが開発されている。つぎに「くすまない表面処理顔料」は、通常使用される板状の体質顔料、例えば微細なエッジにより散乱光を発するセリサイトに対し、はじめから凹凸を消して散乱光を抑制し濡れ色を出し、汗や皮脂で濡れてもその光学特性を変化させず、さらにさらさら感も両立させることに焦点をあて、「外側固体、内側液体」イメージの二重構造のシリコーン表面処理を検討し、色ぐすみの解決をはかった。外側を高反応性シリコーン、内側を低反応性シリコーンを用いることで、はじめから濡れ色を強く出し、かつ色変化が少なく、感触も滑らかな顔料が得られた。(ライオン(株)藤田早苗)

講演⑧「サンケア製品開発におけるシリコーンの応用」
花王(株) 猪股 幸雄氏
  紫外線防御剤の製剤化と効果、使用感、耐水性などの点でシリコーンはW/O型サンケア製剤に広く使われている。紫外線防御剤は有機系、無機系粉体が求める特性に応じて使用されるが、無機系粉体は分散を高めると効果が高く塗布後の透明性もより高い。これら粉体はジメチルシロキサン、メチル水素シロキサン処理され、油相の環状シリコーンやジメチルシリコーンに分散させて用いる。そこで、さらに紫外線防御効果の向上を期待し、内水相に疎水性の紫外線防御粉体を分散させたO/W/O型の製剤を検討した。まずオキサゾリン変性シリコーンを用いて、微細なO/W相を得、さらに乳化剤としてポリエーテル変性シリコーンを用いてO/W/Oを調製したところ、2つの分散乳化剤は相互作用せず、製剤は安定であり、保存されたサンプルにおいてもブラウン運動が観察された。同粉体量ではW/O型よりも紫外線防御効果SPF、PFAが高かった。両者のモデル塗布面の走査型電子顕微鏡像にて、粉体のないポア部分がO/W/O型では著しく減少していることから、粉体がより均一に塗布されていることにより、高SPFが得られたと考える。(ライオン(株)藤田早苗)  以上