EVENT イベント

第35回「SCCJセミナー」感性からのものづくり―感性の基礎から計測そしてものづくりの実際―

  • 第35回SCCJセミナー
  • フリーディスカッションの模様1
  • フリーディスカッションの模様2
  • フリーディスカッションの模様3
「第35回SCCJセミナー」レポート
【開催日】2010年2月17日(水)
【開催場所】大阪国際交流センター 【参加者数】260名
********************************************************************************************
「感性からのものづくり—感性の基礎から計測そしてものづくりの実際—」と題した本セミナーでは、大学から2名の先生、業界内外からは6名の講師の方々にご講演頂きました。技術的には捉えにくい「感性」をテーマとした本セミナーですが、大勢の方々が足をお運び下さいました。また、講演後のフリーディスカッションでは、講演で使用したスライドの掲示を前に直接参加者からの質問へお答え頂く等、講師の方々と議論を交わし活気あふれるセミナーとなりました。セミナー参加者の皆様からは「判り易く充実した内容で、大変有意義な時間となった」等、嬉しい感想が寄せられました。 以下へ、本セミナー8講演のレポートを掲載致します。

********************************************************************************************

講演①【高級感のある化粧品とは−感性価値と感動デザイン工学−】
金沢工業大学 情報学部心理情報学科・感動デザイン工学研究所 神宮英夫先生 感性は印象を受け入れる能力であり、感性価値は感動や共感を得ることにより顕在化する価値と定義される。潜在化している価値を顕在化し、五感情報を組み合わせ、感動をもたらす品質づくりへのアプローチが感動デザイン工学である。本講演では高級感をキーワードとした研究事例が紹介された。感性イメージ解析法で『品質』『化粧感』『デザイン』といったイメージが抽出され、商品コンセプト文の解析から感性的側面や新規性を持つ言葉に高級感が感じられることが分かった。さらに使用感と高級感の関連を化粧水の連用から解析した結果、肌実感と使い心地といった因子は連用により低下し、伸縮感、持続感といった因子が上昇した。連用により高級感の要因は現れてくるが、官能特性だけで説明するには不十分であった。感性価値は評価者自身も意識しない中で形成される。品質設計の重要性と困難性を認識する講演であった。 (座長 菅谷良夫/(株)コーセー)

講演②【心身反応計測による快適性(ストレス)評価】
信州大学大学院 総合工学系研究科 上條正義先生 対話によって共創されるモノには感性価値が存在する。こころの充足感が感性価値とも言える。一般にモノは使い手と作り手が異なるため互いのイメージを理解することは難しく、これらを円滑に行うための技術が感性工学である。本講演では感性工学の手法のうち意識にあがっていないものを意識下に『見える化』する感性計測に関して研究事例を交えて解説された。官能検査では認知されていないストレスを、生体計測-脳波、心電図、筋電位など-を用い『見える化』する中でベルトによる圧迫刺激が視覚の影響を受けること、さわり心地を客観化するための装置の紹介、笑顔の中には黄金比(1:1.6)が存在するなど感性価値の影響を人がいかに受けているかの事例が紹介された。モノをつくる時に認知されにくい感性価値を知り、品質に具現化する事の重要性が示唆される講演であった。 (座長 菅谷良夫/(株)コーセー)

講演③【感性を切り口にした消費者意識と化粧品のトレンド】
(株)エフシージー総合研究所 菅沼薫氏 経済や消費行動、ファッション、化粧品開発や市場の動きから、複合的な感性に基づく消費者意識と化粧品のトレンドについてお話いただいた。感性のトレンドでは、ブレインサイクルという感性の7年周期が存在し、また、28年、56年周期という大衆意識の潮流がある。男性的な「デジタル気分」と女性的な「アナログ気分」が28年周期で繰り返されており、現在は1999年からの女性脳的な感性の時期にある。ファッショントレンドでは、「スポーティ志向」と「エレガンス志向」が14年ごとに繰り返され、2013年に「エレガンス志向」から「スポーティ志向」への転換点となる。化粧品トレンドでは、キーワードを列挙すると、60年代までは「技術開発」、70年代は「皮膚理論」、80年代は「機能性」、90年代は「新素材」、00年代は「自然治癒力」、10年代は「オーガニック」となる。 これらを概観すると、「Functionalism(機能主義)」と「Naturalism(自然主義)」が繰り返しており、現在は、Naturalism的コンセプトとして消費者に訴えることが重要である。 (座長 植田光一/東洋ビューティ(株))

講演④【感性価値を追求した化粧品パッケージのデザイン開発】
(株)カネボウ化粧品 井田厚氏 本講演では、視覚・聴覚・使いやすさに焦点を当てながら、パッケージのデザイン開発を行った事例を紹介された。パッケージの役割は、短期的には消費者の購買欲求行動のきっかけを与えるコミュニケーションメディアとして、また、中長期的には、ブランドを想起するための構成要素としての役割がある。パッケージをなんとなくみて、手に取るような場合を想定して、アイカメラを用いて検討が紹介された。視線の分析により、表示要素と心理効果の関係を解釈でき、情報デザイン開発に有効な知見が得られた。また、聴覚に関しては、コンパクトケースについて紹介された。上市されている商品の開閉音から受ける印象を調査した結果、嗜好性の高かったのはエレガントな音であり、高くシャープな音は好まれなかった。使いやすさの例として、ポンプのボタン形状について紹介された。ポンプ容器では、各指の力の方向が異なるため、トリガータイプにすることにより力の作用方向を変更することで、感覚的にスムーズな吐出が得られた。 (座長 植田光一/東洋ビューティ(株))

講演⑤【毛髪ダメージ実感及びツヤ質感に関する感性研究】
(株)資生堂 川副智行氏 毛髪モデル基板に対する、指を摩擦子に用いた摩擦特性と、ツヤの質感を再現したCG画像に対する嗜好性について紹介された。毛髪のキューティクルを模した毛髪モデルを作成し、指でなぞったときの摩擦特性を評価した。ダメージによる感触の悪化は、キューティクルの高さ変化よりも間隔変化による影響が大きいこと、また、ランダム化により著しく感触が悪化することがわかった。CG画像を用いたツヤ質感の評価では、同一髪形に様々なツヤの質感を再現した8つのGC画像を用いて、モニター調査による嗜好性を調査した。消費者は、ツヤ質感の分類として「ツヤの強弱」に加え「人工的⇔ナチュラル」を重視していることが明らかになった。また、キラキラとしたツヤの質感と落ち着いたツヤの質感の双方に嗜好がある。また、黒髪とカラーではツヤの質感認識は異なる傾向を示した。 (座長 植田光一/東洋ビューティ(株))

講演⑥【スキンケア製品の使用感における心地よさと高級感】
(株)コーセー研究所 妹尾正巳氏 化粧品を手に取り、購入し、使い続けて頂くためには、様々な要素が関係していると考えられる。本公演では、スキンケア製品についてお客様が使い続けて頂くための要因を感性という切り口から、使用感評価の結果を基に紹介された。 感性とは、商品購買の動機付けに始まり、利用することでの心理効果、そして継続使用による皮膚への生理効果を誘導する重要な役割を担っていると、演者は説明された。特に、スキンケア製品の価値は生理効果・機能である。この効果・機能を誘導するには長期間連用が必要であり、そのためには製品の使用感が大切になる。そして、継続使用を促す使用感、それは心地よさと関係する。官能評価法を用いて、心地よさの計測の実例が紹介され、その評価には連用による官能評価結果の変化が重要であり、それは使用感評価の難しさでもあるとの説明であった。また、最後に化粧品の高級感を出す試みの一部も紹介された。化粧品を開発する上での感性の重要性について、評価方法と実例を踏まえ、わかり易く、有用な講演であった。 (座長 瀧野嘉延/味の素(株))

講演⑦【嗅覚に訴える製品つくり〜製品開発における裏に隠れた香りの力〜】 ライオン(株) 松川浩氏 製品開発を行う上でますます重要な位置を占めるであろう「香り」に関して、トイレタリー製品開発の研究事例を基に、香りの力とその魅力について講演頂いた。演者は、香りへの期待は、リラックス・リフレッシュであり、近年のトイレタリー製品における香りの訴求は、お客様の購買意欲の向上に繋がっていると話された。さらに、香りには嗜好性の向上、商品のイメージ化、そして生理・心理作用の付与による機能性への活用が考えられると説明された。 本講演では、α波周期リズム計測評価法を用い、ボディソープの香りについて、快・不快、興奮・鎮静について研究事例を紹介された。シトラスタイプの香りは、興奮状態への誘導を導くなど、香りの違いによる気分への影響を客観的評価法にて説明された。また、「印象に残る香り」を開発するため、再認知性評価試験法を用いてシャンプーの香りを評価し、短期的及び長期的な使用評価において、個性的な香りであることが識別性を高くし、ありふれた香りでは識別性が低くなることを紹介された。さらに、香りにより女性が男性の声に対しどのような印象の変化を引き起こすか、具体的事例を基に説明された。化粧品開発における香りの重要性と香りの選び方、そして、その客観的評価法に関し実例を基に紹介され、今後の商品開発に繋がる貴重な講演であった。 (座長 瀧野嘉延/味の素(株))

講演⑧【開発者の「味」つくりをどうやってお客様の価値につなげるか】
サントリーホールディング(株) 永井元氏 業界外から、清涼飲料(伊右衛門など)の開発について、講演頂いた。講演は、(20年前、入社当時)20年後に何を研究する必要があるかという研究所の話から、ウーロン茶や伊右衛門の開発、そして、脳科学の話と多岐にわたる興味深い講演内容であった。伊右衛門を世に出すプロジェクトを開始した頃、緑茶商品はすでに数多く存在し、半年間ほど各部門が集まり議論を続けた。良い商品を開発することは、最終的に、開発者側からお客様への明確なメッセージを送ること、そして、開発者の思いをいかに商品化するかが重要であるとの説明であった。さらに、飲料を開発(株)する上での香味設計、感性工学的アプローチに関しては、精度の高い開発を行うための具体的な方法として紹介された。また、おいしさを感じる上で重要な、最新の脳科学に関する紹介、苦味と嗜好に関する知見についても紹介された。 なぜ日本で飲まれていなかったウーロン茶が、これほど日本で飲まれるようになったのか。それは日本人が昔から飲んでいた冷たいお茶の代表である麦茶に、ウーロン茶が似ていたからである。このような、飲料独特の話を交えながら、商品開発の難しさ、重要性を楽しく紹介して頂いた。 (座長 瀧野嘉延/味の素(株))