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「講演会」のご案内

  • 質疑応答の様子
『薬剤が誘導する発毛と表皮分化異常〜相反する効果にどう向き合うか〜』
<講師> 関西学院大学理工学部
生命科学科 生命医科学専攻 教授 理学博士 平井 洋平 先生

発毛剤および育毛剤の開発に際し、いかに薬効が高くかつ副作用の少ない有効成分を見出せるかが重要です。本講演では、発毛剤、育毛剤の有効成分の開発事例の解説と、そこから派生した表皮分化異常の改善剤の開発に関して紹介いただきました。
男性型脱毛症は、男性ホルモンの一種であるテストステロンが毛乳頭細胞においてDHTに変換され、このDHTが毛母細胞の増殖を抑制することによって発生するといわれています。DHTは頭頂部の頭髪には抑制的に作用しますが、ひげでは剛毛化させるといった部位特異的な作用を有していますが、その詳細は明らかになっていません。男性型脱毛症の抑制の一次ターゲットとしてDHT変換酵素の阻害などが挙げられ、二次的評価として動物試験や臨床試験の手法を紹介いただきました。
一方、男性型脱毛症以外の発毛・育毛剤の開発アプローチとして血流増進や発毛機能の活性化が挙げられます。ミノキシジルの効果は、血管拡張による血流改善によると考えられています。発毛に関わる生理活性成分の応用例として、ソニックヘッジホッグ(Shh)およびエピモルフィン(EPM)を例に挙げて解説されました。Shhは毛包形成を誘導する因子で、Shhをノックダウンしたマウスでは毛包形成されないことや、強制発現した場合は毛包形成が誘導されることから、Shhのアゴニスト(レセプターと結合し同様の作用を発現する)の発毛剤への応用が期待されていました。しかしながら、安全性に課題があり開発が断念された経緯があります。一方、EPMは種々の形態形成に関わる因子であり、毛包の成長期に特異的なAHFの発現量を高めることがわかりました。実際、EPMをマウスに皮内注射すると成長期誘導されました。そこでEPMの活性中心部位であるペプチド性アゴニストが開発され、動物試験で毛包の成長期誘導することが証明されました。しかしながら、このEPMアゴニストも癌化作用があることが判明し残念ながら開発は中断されました。
EPMアゴニストの発毛剤としての開発は中断しましたが、研究の過程で、皮膚病変部位でのEPMの発現増加や、EPMの強制発現による病変の出現、EPM発現を抑制しても病変が生じないことを見出し、研究の発想の転換から、EPMのアンタゴニスト(レセプターと結合し作用を生じない)の表皮角化異常の対処剤としての開発を目指されました。EPMアンタゴニストであるEPn1は、動物試験において副作用無しに角化異常を正常化することがわかりました。
今回の平井先生の講演は、発毛剤や育毛剤の開発に関連し、男性型脱毛症の抑制剤や発毛促進剤の開発手法をわかりやすく紹介いただきました。さらには、有効成分の開発に伴い常に課題となる有効性と副作用の問題も示され、やむなく中断した研究テーマも、発想を転換し新たな視点で見直すことによって、新しい可能性を引き出すことができることをご教示いただきました。これは研究技術者としてとても大切な視点であると感じました。
以上

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