EVENT イベント

第42回「SCCJセミナー」健やかな毛髪を保つ最新のヘアケア技術〜よく知り、最適なケアで魅せる髪に〜

第42回SCCJセミナーは、数年ぶりに「ヘアケア」をテーマに取り上げ、7名の講師の方々にご講演を頂きました。座長(セミナー委員会)より、レポートが届いたので掲載します。

講演①「毛髪の力学物性を制御する階層構造」
KRA羊毛研究所所長 新井 幸三 先生

毛髪物性に深く関わるSS結合は、毛髪内部のコルテックスを構成する中間径フィラメント(IF)とマトリックスタンパク(KAP)に複雑に分布している。パーマネントウェーブ処理やブリーチ処理により、KAP分子間のSS結合を切断し、凝集構造の破壊により毛髪の力学物性が低下することが見出された。また、水中においてはKAPの配列が不規則になり、IFのロッド表面に加わる圧縮力は減少するとともにIFの水和が増加し、水中における弾性率の減少が起こる。毛髪の力学特性について、分子レベルの構造変化を物理化学的な視点で語っていただいた。一方で毛髪にはまだまだ未解明な部分が多いことも語られており、若手研究者の活躍を期待しているようにも感じられた。
(ホーユー(株) 今井健仁)


講演②「蛍光で見る毛髪の構造とダメージ」
(株)成和化成 村越 紀之 氏

イオン性の蛍光試薬を毛髪に処理して蛍光観察した結果、ダメージ部分には蛍光試薬が付着しやすくなっていることが確認された。また、パーマ処理をするとイオン性物質が毛髪内に浸透しやすくなる現象も確認された。よって、ヘアケア成分にイオン性をもたせることによりダメージ部に選択的に作用し、より効果が高まることが期待された。また、ヘアケア成分の分子量を適切に選択することによっても、ダメージの状態に応じたより効果的なヘアケアが可能になると考えられた。
ひと目で分かるようなビジュアル的なデータを数多く紹介し、解説していただいた。研究開発者にとっても、すぐに商品開発に応用できるような速戦的な内容の講演であった。
(ホーユー(株) 今井健仁)


講演③「放射光を利用した毛髪の観察」−微細構造観察と元素・化学マッピング−
(株)カネボウ化粧品 スキンケア研究所 竹原 孝二氏

ダメージを受けた毛髪の「どこがどのように変化するか?」を知ることは、ヘアケア製品の開発に重要である。Spring-8で開発されたX線CTは、SEMやTEMなどと異なり、インタクトな状態で毛髪内部の微細構造を高感度で観察できる方法である。本方法にて、健常毛とダメージ毛、同じダメージでもパーマやブリーチといった処理法の違いにより、キューティクルに特異的な変化を生じることが観察された。また、XANESや蛍光X線といった微小な領域の成分測定が可能な方法を用い、毛髪中の化学マッピングを作ることで、未処理毛の主成分のシスチンとダメージ処理により生成されるシステイン酸や、カルシウムやイオウの分布が可視化された。本方法により、強い化学処理だけでなくヘアアイロンの加熱により生じた組成変化も観察された。本講演は、毛髪がダメージを受けるメカニズム解明とその修復を考える上で、大変貴重な内容であった。
(オッペン化粧品(株) 吉武裕一郎)


講演④「美しく健やかに」毛髪と地肌を洗浄する技術」
ライオン(株) ビューティケア研究所 金田 澄氏

シャンプーやコンディショナーには、ただ汚れを洗浄し清潔に保つだけでなく、毛髪を美しく保つ、心地よく健やかに洗浄できる機能が一層求められている。その実現のため、化学的、物理的ダメージにより失われたキューティクル最表面の18-MEAの補修が毛髪ケアでは重要となる。本講演では、健常毛とダメージ毛にそれぞれで吸着挙動の異なるコンディショニング成分の検討や、シリコンウエハを基盤にした毛髪表面モデルを用いた成分評価について話された。一方、地肌ケアでは、地肌が乾燥しているとの研究に基づき、保湿をいかに行なうかを目的とし、保湿剤の検討によりソルビットが優れていると見出し、同成分配合製品の連用試験において、角層水分量の改善、痒み低下、毛髪ケア実感効果の向上が確認された。本講演は毛髪と地肌のそれぞれのケアのポイントとその機能付与技術の紹介がなされた実践的な内容であった。
(オッペン化粧品(株) 吉武裕一郎)


講演⑤「毛髪を美しく健康的にするヘアケア技術」
(株)資生堂リサーチセンター 萩原 基文氏

日常生活における様々なダメージや加齢により、毛髪構造や物性が変化して、その外観や感触に影響を与えている。外観変化には洗髪による毛髪中のメラニン流出が寄与し、それは健常毛よりもダメージ毛の方が顕著で、毛髪のくすみを引き起こす。シャンプーの低pH化と、高分子ポリマーのポリクオタニウム-11で毛髪表面をコートするメラニン流出抑制技術により、毛髪のくすみ抑制と美しさが保持されると話された。一方、毛髪のハリコシの重要な役割を果たすキューティクルに発現するケラチン関連タンパク(KAP)5は、加齢、過酸化脂質や炎症によりその発現が低下する。各年代の女性の毛髪や頭皮の調査からもそれが裏づけられ、KAP5の発現量を高めることが、ハリコシがあり、ダメージに強い毛髪を育てることにつながるとされた。本講演は毛髪中のメラニンケアや遺伝子レベルからのヘアケア技術といった新しい観点に満ちた内容であった。
(オッペン化粧品(株) 吉武裕一郎)


講演⑥「頭皮と髪の加齢変化とケア技術(マッサージの効果など)」
花王(株) 曽我 元氏

髪のハリ・コシの低下や、薄毛などが中年以降の女性で目立ってくるが、髪の生育の場である頭皮について、機能、構造、物性の加齢変化について検討している。年齢と弱いが負の相関を示した頭皮の厚みについて、毛髪密度、毛髪径、毛包角度と正の相関がみられた。また、毛髪の短径と血流量にも正の相関が見られた。これらの事から、頭皮の構造、血流量が髪の生育に関連することを推察している。そして、頭皮の刺激、血流促進誘導の観点から、地肌マッサージに着目し、それを実施することで、毛髪、頭皮への作用を検討した。その結果、血流量の増大を介して、毛髪の立ち上がりを示す毛包角度の向上、髪密度の向上、曲げ弾性係数の向上を検証した内容をご紹介いただいた。これまでも、頭皮マッサージが毛髪の生育によいと言われてきたが、それを科学的に実証した内容であり、近年の毛髪のための地肌ケアへの着眼を支持する有用なデータであった。
(ライオン(株) 青野恵)


講演⑦「非日常の発見」−ヘアケアトレンドに隠されたコア技術−
クローダジャパン(株) 研究所 応用研究課 課長 前田 茂氏

世界におけるトレンドとそれに応えるために必要な技術について講演いただいた。まず、世界のヘアケア市場で成長率が高い地域としてラテンアメリカと中東、また、成長率の高いカテゴリーとして、コンディショナー、カラーを紹介いただいた。また、ヘアケア分野における3つの新しいトレンドとして、①:ヘアチョーク、ヘアマスカラ等と共に褪色の少ないヘアカラーが求められていること、②:三つ編みを用いたアレンジスタイルの流行で、強い毛根と簡単にねじることができる毛髪が必要であること、③:ナチュラルロングにくっきりとしたウェーブで流れを作るといった内容と、これらに必要な技術例をご紹介いただいた。世界のヘアケアトレンドを知り視点が広がるご講演であった。
(ライオン(株) 青野恵)