EVENT イベント

第57回SCCJセミナー



第57 回SCCJ セミナー 2021 年9 月8 日(水)オンライン開催(講演数:6題/参加者:136名)
テーマ:新しい生活スタイルで求められる化粧品とは 〜激変する世界での化粧品の在り方を考える〜



演題①「@cosme からみるコロナ禍の美容意識の変化」
株式会社アイスタイル 原田 彩子 氏,西原羽衣子 氏

 コロナ禍により消費者の意識と行動変容が起きており,消費者に寄り添った製品開発のために消費者実態を理解することは重要である。「@cosme」会員の膨大なクチコミ情報や意識調査を基に,コロナ禍での消費者意識の具体的な変化と,人気の高い化粧品に関する御講演をいただいた。意識調査から,購入前の体験機会の提供,安心感と新しさ(エンタメ性)の絶妙なバランス,マスク生活の定番化によるマスク対策化粧品の進化等に関して,具体的な製品,クチコミを交えて述べられた。なかでも,消費者が化粧品に面白さを感じてワクワクすること,閉塞感のある生活に化粧品でメリハリと刺激を与えることが重要であることは興味深い洞察であった。コロナ禍でさまざまな消費者ニーズが現出し,多様な製品が上市されている。そうした製品のコンセプトや機能の系統的説明や,コロナ終息後の生活に関する見解は,今後の化粧品の価値創出のヒントとなる有益な講演であった。
(味の素株式会社 池田 直哲)

演題②「マスクの下のスキンケア」
一丸ファルコス株式会社,岐阜薬科大学 特任教授 アルナシリ イダマルゴダ 先生

 COVID-19 が世界中で広がる中,マスク着用による皮膚への影響と対策に関しては,通常のスキンケアとは異なる多くの要素を理解しなくてはならない。一方で,何が正しい情報なのか?エビデンスベースな情報が少ない現状の中,講師であるアルナシリ先生は,国内外の皮膚科医から最新の情報収集をしていただき,症例を含めたエビデンスベースな内容の講演をいただいた。内容としては,新しい皮膚科学の用語説明,マスク下の有害な皮膚反応,マスクにより悪化する皮膚炎など話を,さらに4 つの最新の研究事例の講義をいただいた。
 本講演より,国内外の最新の研究情報が共有化され,今後の化粧品開発に応用・参考とされる内容を学ぶことができた。
(株式会社ミルボン 伊藤 廉)

演題③「コロナ前後で変化する化粧意識とそれに応じた基剤開発」
株式会社資生堂 池田 智子 氏

 コロナ禍で消費者の生活行動が変化し,化粧への意識も大きく変化している。本講演ではそれらの変化に対応したいくつかの化粧品基剤開発についてご講演いただいた。
 マスクに付着しにくいファンデーションでは,従来の揮発油や被膜剤では限界があるため,撥水性粉末を特殊なコーティングをすることで水相に分散させて活性剤,油分を配合せず付着レスが実現できること,口紅の付着レスでは2 次付着レス口紅の従来からある2 つの技術(皮膜剤と2 層分離)を合わせることで達成できることを,わかりやすく紹介いただいた。
 またオンライン化が進む中,男性の化粧への関心は高まっており,売り上げも伸長していること,女性に比べ男性の肌が弱いというデータが紹介され,男性に対応した化粧品開発の将来性や生活様式,消費行動の変化が起こったことで,消費者ニーズに対応した商品開発の必要性を改めて認識させられた有意義な講演であった。
(株式会社ナリス化粧品 寺内 友広)

演題④「花王グループの社員を守る 新型コロナ対策」
花王プロフェッショナル・サービス株式会社 大熊 康資 氏

 花王社内では,新型コロナが広がり始めた2020 年7月に「感染症リスクアセスメントプロジェクト」を発足し,エビデンスに基づいたリスクアセスメント,社員向け情報発信,有用情報の社外発信を実行している。社員向け情報発信としては,「社員の働き方実践マニュアル」を策定した。これは行政から出ているガイドラインを基に,状況に応じて社員に徹底して欲しいことに絞った一歩踏み込んだ行動指針となっている。また,感染症対策においては心のケアも必要であることから,不特定多数のお客様と接する機会の多い化粧品美容部員に対しては,お客様の満足度向上に加え,美容部員の不安を解消できるような接客マニュアルを整備した。新型コロナについては新しい情報が次々に入ってくるが,本講演を通じて,最新エビデンスに即した対策指針を,想像力を働かせて社員一人一人の行動に落とし込んで訴えることの重要性を認識することができた。
(岩瀬コスファ株式会社 田中 一平)

演題⑤「化粧品業界と「情報リテラシー」:情報の捉え方・扱い方・発し方を考える」
明治大学 山本輝太郎 先生

 世の中は情報化社会であるが,その情報の取り扱いや発信には十分な注意が必要である。本講演は情報リテラシーに関して,その概論・情報の捉え方・情報の扱い方・情報の発し方に関して具体例を示してお話ししていただいた。
 情報の捉え方に関しては直観・感情といった思考システムと,熟慮・理性といった思考システムを合わせて意思決定がされるが,それぞれの思考システムの特徴などを具体的な問題などでわかりやすく解説していただいた。
 情報の扱い方に関しては,科学と疑似科学,またその信頼性(理論の観点・データの観点・理論とデータの関係性の観点・社会的観点)に基づいたエビデンスの重要性に関して解説していただいた。
 情報の発信に関しては,メディア発信の特性や,風評的被害への対応方法などを解説していただいた。
 フリーディスカッションにおいても,情報の取り扱いや発信の難しさなど私たちメーカーで課題になっていることを中心に活発に議論が行われ,教育も含めた今後の課題が浮き彫りになりとても有意義であった。
(株式会社コーセー 相良 圭祐)

演題⑥「ライオンの研究開発でのAI 活用」
ライオン株式会社 黒川 博史 氏

 本講演では,ライオンの研究開発におけるAI 活用の考え方や,事例ついてご講演いただいた。
 ライオンでは2021 年1 月にDX 推進部を発足,デジタルナビゲーターが見出してきた社内課題をデータサイエンティストが解析,解決策を導出し,デジタルナビゲーターにフィードバックして,実装,検証を行うというサイクルでの業務改善に取り組んでいる。解決策導出に用いられるAI 技術として機械学習があり,予測精度は高いが説明がブラックボックスであるディープラーニングと,予測精度は劣るものの重要変数や予測メカニズムが理解しやすい決定木という2 つの手法がある。これまでに歯ブラシやフレーバーの開発において決定木の手法を活用し,開発期間の大幅な短縮を実現した。
 AI 技術はあくまで手段であるとの演者のメッセージは,DX 全体にも当てはまる。DX 推進に試行錯誤している多くの企業にとって,具体的な実践例を知ることができたと同時に,DX 推進の目的や意義を改めて考えさせられた講演であった。
(ライオン株式会社 奥村 隆)


関連リンク
第57回SCCJセミナー