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第45回「SCCJセミナー」お客様に満足いただけるスキンケア製品を目指して −知っておきたいスキンケア開発の実践A to Z−

第45回SCCJセミナーは「お客様に満足いただけるスキンケア製品を目指して」− 知っておきたいスキンケア開発の実践A to Z −と題し、259名もの皆様にご参加いただきました。
セミナー後のフリーディスカッションでは、講師より簡単な実験を実演頂くなど、大変有意義な開催となりました。
セミナー開催担当委員よりレポートが届きましたので掲載いたします。

美しさという本能を呼び覚ます
現代女性の心と肌を虜にする化粧品開発への取組み
(株)ポーラ BAブランドマネージャー 砂金 美和 氏
近年、科学的に効果を極めた化粧品は優れていると理解されるが、必ずしも売れるとは限らない。化粧品に対する女性のニーズは、時代の価値観や女性を取り巻くライフスタイルによって変化している。そこで、女性の心の中に潜むインサイト発掘を基点とした商品開発についてご講演頂いた。
商品が市場に出るまでのプロセスである、インサイトの発掘、コトとしての商品設計、具体的な品質設計、お客様に如何に伝えるかという実際の流れに沿って、お客様に共感頂ける商品開発の重要なポイントを具体的に紹介頂いた。女性の「感」に如何にヒットするか?に注力し、多面的にターゲットに対して提供する価値設計を行うことが、商品開発に携わる者にとって大変必要であることが理解できた大変有益な講演であった。
((株)資生堂 小又 昭彦)


スキンケア化粧品のコンセプトの変化−角層を保湿することの重要性−
(株)CIEL 岡野 由利 氏
スキンケア製品の最も基本的な機能である“保湿”に関して、皮膚科学の進歩の歴史とそれに対応した化粧品技術の変遷についてご講演頂いた。
皮膚を潤すことは、ツタンカーメンの太古の昔から行われてきた習慣である。しかし、皮膚が水分を保持する機能が詳しく解明されはじめたのは20世紀も半ばになってからであり、その四つのバリア機能を説明頂くとともに、特に1990年代後半から発見された皮膚の保湿機能に関する新しい機序を紹介いただいた。
近年、皮膚の表面、すなわち角層をしっかりケアすることで真皮の状態まで良好に保つことができることが明らかとなり、しっかり保湿することの大切さを改めて認識できる大変有益な講演であった。
((株)資生堂 小又 昭彦)


高保湿スキンケア製剤の処方設計の考え方
(株)資生堂 リサーチセンター 岡本 亨 氏
角層は天然保湿因子による保水性と細胞間脂質により水分蒸散を防ぐバリア性の二つの機能から皮膚の保湿機構を担っており、これらの観点からのアプローチがスキンケア化粧品の最も基本的な機能である保湿を考える上で重要となる。本講演では、保水性を示すグリセリンに代表される低分子ポリオール類の角層への浸透促進を図る配合成分やαゲル製剤化技術、角層表面で塗布膜を形成することで水分蒸散を防ぐ油性成分の閉塞性と物性との関係、保水性と閉塞性を両立させたαゲルエマルション製剤の性質と効果について、そして、細胞間脂質構造を模倣して人工的に作成された角層擬似基板を用いたバリア性向上のための基材からのアプローチが紹介された。本講演は、スキンケア化粧品の機能の根本である保湿をより効果的に実現するための考え方と方法が詰まった、化粧品技術者にとって重要かつ有用であった。
(オッペン化粧品(株) 吉武 裕一郎)


保湿化粧品の有効性評価 −セラミド配合製剤の事例−
花王(株) スキンケア研究所 片山 靖 氏
 化粧品の効果効能の標榜には、有効性を発現する成分の役割を理解し、そのメカニズムに基づきヒトの皮膚で客観的に検証する、エビデンスに基づいた捉え方の重要性が増してきている。本講演では、セラミド配合製剤を取り上げ、はじめに、角層細胞間脂質が担う保湿バリア機能へのセラミドの役割、ヒト皮膚中のセラミドの種類、それらが形成するラメラ構造、皮膚計測による保湿バリア機能の評価法の紹介がなされた。続いて、細胞間脂質や構造を模倣して作られた擬似セラミド配合製剤である高含水ラメラ製剤とマルチラメラエマルションの物性と連用試験評価事例を紹介され、二つの製剤がラメラ構造を有することが、皮膚の保湿バリア性だけでなく、皮膚中のセラミド組成をも改善しうると話された。化粧品の効能効果の実証は、皮膚計測による実使用での実証だけでなく、メカニズムの理解、成分と構造の評価があってこそ成り立つと理解できた大変有用な講演であった。
(オッペン化粧品(株) 吉武 裕一郎)


高速攪拌機とスケールアップ
プライミクス(株) 乳化分散技術研究所 春藤 晃人 氏
処理物に強力な剪断を与える高速攪拌機は、乳化や分散用途で使用されることが多く、化粧品の製造プロセスで一般的に使用されている。本講演では、まず、バッチ式の高速攪拌機と、高速攪拌と低速攪拌とを組み合わせた各種複合型攪拌機の特徴や用途の紹介がなされた。次に、スケールアップの考え方と注意点について解説され、ビーカースケールから生産スケールへの移行の際には、攪拌機本来の機能に由来する機能的要素と、攪拌容器の形状を相似にするための幾何学的要素を検討の中心に据えることが、試作処方の再現の良い仕上がりにつながるとのことであった。本講演は、ラボスケールで作り上げた処方を実生産へ移行するため、化粧品技術者が知っておかねばならない必要不可欠な知見が得られた非常に有用な講演であった。
(オッペン化粧品(株) 吉武 裕一郎)


「まさか」の品質トラブルを防ぐ −品質保証のあり方について考える−
SHONAN T.Q.M研究会 和田 孝介 氏
 スキンケア製品の品質保証のあり方について、ご自身の豊富な経験をもとに化粧水のにごり、乳液の分離、クリームの変質という3つの事例について講演いただいた。
 官能検査は人によっては訓練しても上達が難しいケースもあり、マニュアル化だけでなく人の適材適所も考えて行うことにより化粧水のにごりの問題を解決した。乳液の分離は、遠心分離法という迅速で簡便な評価方法を導入して対処した。また、クリームの変質は消費者の実使用方法に対応した評価方法を導入することで対処した。生産工程のばらつきやミス、製品の劣化、消費者が使用する際の品質を考えた先手管理の品質保証が大切である。
 近年の複雑化する処方を鑑みて、「個人的には、作りやすい製品は消費者にも受け入れやすいと考えている」という言葉は今でも印象的に残っている。
(ホーユー(株) 今井 健仁)


失敗に学んだか・・・!? 開発研究の醍醐味と落とし穴
ニッコールグループ(株)コスモステクニカルセンター 鈴木 敏幸 氏
 開発研究における成功事例、失敗事例についてご自身の長年の経歴をもとにドラマチックに語っていただいた。
 若いころは他社の研究者が先生であったこと、自信満々の処方が分離を起こしてしまったこと、処方開発だけでなくユーザーに見せるための画像を撮るのに四苦八苦したこと、振らせて使うなどあり得ないというベテラン勢の認識がユーザーの「可愛い」で一変してしまったこと、ブームに乗って話題性のある成分を使ったら効果の実証に思わぬ苦労を強いられたことなど、処方開発だけでなく効果の実証、ユーザーへの伝達、上司の説得等々、多岐にわたってご講演をいただいた。
 一般的な研究発表では成功事例しか取り上げないことがほとんどであるため、こういった失敗事例も含めたご講演は新鮮であるとともに、高い品質が求められる昨今の商品開発については貴重な教訓でもある。
(ホーユー(株) 今井 健仁)