EVENT イベント

第58回SCCJセミナー

  • ヘアケア処方の変遷と技術動向(神戸大学大学院 辻野先生)
  • 生活者の実態を捉えた毛髪評価方法 (ライオン株式会社 大石氏)
  • フリーディスカッションの様子(クラシエホームプロダクツ株式会社 松江氏)
第58回SCCJセミナー参加レポート
2月18日(金)に開催された第58回SCCJセミナーに参加致しました。今回は来場参加、Web 参加のどちらでも参加できる形となっていました。リアル開催の臨場感、Web参加の手軽さを選べる開催形式は、様々なニーズに対応できる開催形式だと感じました。

今回のテーマは「ヘアケアの評価技術と処方技術の最新トレンド~多様化するニーズと複雑化する髪履歴に対応する技術を考える~」となっており、約8年半ぶりにヘアケアを中心としたテーマになったそうです。ヘアケア製品の処方の変遷 と技術動向、毛髪の評価方法、新規界面活性剤、新たなカラートリートメント及び頭皮頭髪のエイジングケアまで毛髪及び頭皮に関する基礎から製剤技術まで幅広い内容に関する講演を聴くことができました。ヘアケア技術者だけでなく様々な化粧品技術者にとっても非常に有意義な講演となっていました。

以下、取材を行ったSCCJ広報委員の花王㈱の福永、㈱シーボンの松嶋のコメントを記載させていただきます。

<花王株式会社 福永恭子>
普段、ヘアケア研究に直接携わっていないため、基礎的なヘアケア処方の変遷から、最新動向まで学べる、とてもありがたい機会でした。本セミナーに参加して、クセや染毛など従来からの消費者ニーズに対する最新技術と、長寿化・パーソナライズ化・コト消費など、昨今のキャッチ―なニーズに対する取組を聴講することができました。前者では、耐熱トリートメント技術や、黒髪メラニンのもとを応用した技術など、長年培ってきた技術の未知な領域をさらに深く追究されており、常に最新ニーズに応答される姿勢に共感しました。後者では、生活者の実態調査や、毛髪・頭髪のビッグデータ解析等を通して、例えば、髪の未来予測結果からパーソナライズケアを提案する等、多様化・細分化するニーズを様々な視点から検討されており、大変興味深かったです。今回は、時々、現地会場が映し出されたり、フリーディスカッションでは各講演のファシリテーターが議論しやすいよう進行して下さったりと、Web参加者も現地会場に一緒にいるような一体感を味わうことができたと思います。

<株式会社シーボン 松嶋高志>
ヘアケアに限定して処方技術の変化や新規原料、評価技術まで幅広い知識を吸収できるとても貴重なセミナーでした。いつもはスキンケアを中心に情報収集をおこなっていますが、ヘアケア技術の動向を知ることで、少し違う角度から自分の業務を見つめる機会になりました。また、ヘアケアとスキンケア、それぞれの技術がある一方、生活者の多様なライフスタイルや環境変化に伴った個性に対応する時代。ニーズも多様化し、QOL向上のためには評価技術やデータ利用、新たな原料や処方技術の開発、パーソナライズケアの提案等、全てひとつなぎに発展していかなければならないことを再確認できました。企業内での自身の業務だけでなく、化粧品技術者の一員として広い視野を持ち、美を提供し続けたい。様々な分野の知識を聴講できた本セミナーに参加したことで色々と考えさせられる、とても有意義な一日になりました。

最後になりますが、本講習会でご講義頂きました講師の先生方と企画運営頂きましたセミナー委員会の皆様に感謝を申し上げます。
SCCJ広報委員
福永恭子(花王株式会社)
松嶋高志(株式会社シーボン)



第58 回SCCJ セミナー 2022 年2月18日(金)於:大阪市中央公会堂[ライブ配信あり](講演数6題/参加登録者:226 名)
テーマ:ヘアケアの評価技術と処方技術の最新トレンド〜多様化するニーズと複雑化する髪履歴に対応する技術を考える〜



演題①「ヘアケア処方の変遷と技術動向」
神戸大学大学院 教授 辻野 義雄 先生

 本講演では,石鹸の登場から現在に至るまでのヘアケア処方の変遷と,その中でも現在のシャンプー製剤の基本技術であるコアセルベーション技術と,最新の毛髪処理剤に用いられているバイオコンジュゲーション技術の詳細をご講演いただいた。
 コアセルベーション技術は,シャンプー製剤とその毛髪への使用,すすぎとの各段階で,カチオン性高分子とアニオン界面活性剤の複合体の生成,析出・毛髪への吸着,消失との挙動をとることで,毛髪の風合い向上に大きく影響を与える。
 毛髪を対象とするバイオコンジュゲーション技術は,毛髪タンパク内の標的官能基と各官能基と反応する毛髪処理剤とを温和な条件で化学結合させることで,ハリやコシの付与,うねりの緩和などの髪質改善効果を持続させる。
 ヘアケアを専門にしている,していないに関わらず,ヘアケア処方のこれまでとこれからを考えるうえで,私たちの理解を助ける有用な講演であった。
(オッペン化粧品株式会社 吉武 裕一郎)
講演②「生活者の実態を捉えた毛髪評価方法」
ライオン株式会社 大石 泉 氏
 「自分の髪質に合っている」と感じるヘアケアアイテムを選定できている生活者は,全体の3 割に満たない。
その要因として,生まれ持った毛髪の特性差,ダメージ履歴や毛髪部位等が考えられる。また,日常的に使用しているヘアケア剤の性能によって手触りが疑似的に変化するため,実際の髪質とは乖離が生じていることがあげられる。本講演では,その流動的に変化する毛髪の「ばらつき」を少なく評価する考え方・方法についてご紹介いただいた。毛髪の評価方法は大きく「官能評価」と「機器評価」に分類される。「機器評価」は,あくまでも「官能評価」を定量的に表すための代替値であると考えている。しかしながら「官能評価」は環境・評価部位・評価者の体調などにより結果にバラつきが生じやすい。そのため,絶対評価基準の設定・評価者の訓練・ランダム化の実施がポイントとなる。「機器評価」による毛髪状態の測定には多くの方法があるが,どのような試験を行うことで,より「官能評価」の結果と整合性がとれるかについて検討することが重要である。
(株式会社アサヌマコーポレーション 栗田 知子)

演題③「N─アシル─N─(2─ヒドロキシエチル)─β─アラニン塩のアミノ酸系界面活性剤
    :その特異な界面挙動とシャンプーへの応用」
クラシエホームプロダクツ株式会社 松江 由香子 氏

 アミノ酸系界面活性剤を主洗浄剤としたシャンプーの課題として泡量と泡弾力があげられる。本講演ではこの課題を解決するために新たに設計されたラウロイルヒドロキシメチル─β─アラニンNa(HEA)の特性についてご紹介いただいた。HEA はヒドロキシエチル基が分子間で水素結合をすることにより従来のアミノ酸系界面活性剤よりも密にパッキングすることができる。これにより界面膜が強固となり泡の合一,破泡が抑えられ,結果として泡量,泡のきめ細かさ,泡弾力をシャンプーで実
現することが可能となった。洗浄剤の課題において,活性剤の分子構造に解決策の仮説を立て,それを検証していく過程を丁寧にご説明いただいた。本講演を通じて,界面活性剤の会合体ともいえる泡膜の性質に,その一つ一つの分子構造がいかに影響を与えるかについて理解を深めることができた。
(岩瀬コスファ株式会社 田中 一平)

演題④「グリオキシル酸を用いた酸熱トリートメント技術について」
株式会社資生堂 石森 綱行 氏

 国内サロンでは,グリオキシル酸などのさまざまな「酸」を機能性成分として用いた「酸熱トリートメント」が人気を博している。この最大の特徴は,施術工程に高温整髪用アイロンによる熱処理が加えられることで,クセ毛のうねりが抑えられることである。その特徴や毛髪の形態変化,引っ張り伸長特性から考察したクセ抑制のメカニズムなどをお話ししていただいた。特にメカニズムに関しては今までよくわかっていなかったが,石森先生たちのご研究ではミクロフィブリル内の分子間架橋結合によるものと結論づけられた。
 講演後の質問タイムやフリーディスカッションにおいても,数多くの方から質問が出て活発に議論が行われ,酸熱トリートメントやその応用性の関心が高いことがうかがえとても有意義であった。
(株式会社コーセー 相良 圭祐)

演題⑤「カラートリートメントの特長と黒髪メラニンのもとを応用した染毛料の技術開発」
花王株式会社 島津 綾子 氏

 カラートリートメントは髪をトリートメントのようにケアしながら,髪を色付けることができる染毛料であり,その簡便さや安心感から,近年注目されている。本講演では,カラーリング製品内でのカラートリートメントの位置づけや市場規模に関する情報や,鮮やかな発色や髪を傷めない製剤特徴に関して,直接染料の種類やそれぞれの具体的な毛髪への作用機構を通じて示していただいた。また,経時での色味変化が少なく,自然な艶感を有する黒髪に染毛することができる技術として,「黒
色メラニンのもと」を活用した染毛料について,その開発経緯や処方の工夫,それによって発現した毛髪への効果について詳細に示された。これらの知見は,今後,「高い染毛効果」を「安心・安全」かつ「簡便・手軽」に届ける商品を開発するうえで参考となる非常に興味深い内容であった。
(花王株式会社 尾沢 敏明)

演題⑥「頭髪の加齢変化の長期的研究とエイジング頭髪の解析手法」
株式会社ミルボン 永見 恵子 氏

 本講演では,3000 人を超える女性の毛髪と頭皮に関する網羅的なデータや,全国から収集し解析した3 万人超のデータをもとに,毛髪と頭皮の解析手法や加齢変化,頭皮のケアにより美しい髪を維持できる可能性についてご講演いただいた。デジタルマイクロスコープ画像から得られた複数のパラメーターが年齢と相関することや,頭皮の色味が毛髪のツヤや白髪の割合と関連し頭皮の細菌叢も異なること,さらにヘッドスパを習慣的に利用する地方の女性は他の地方と比較して頭皮の状態が良
いこと,ライフスタイルが頭皮の状態に影響することなど,興味深い結果をご紹介いただいた。顔の皮膚と比べ毛髪と頭皮の情報は少なく,ビッグデータから得られた知見は大変貴重である。これからの頭髪のケアを考えるうえでとても有益な講演であった。
(株式会社ノエビア 新垣 健太)


関連リンク
第58回SCCJセミナー