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第59回SCCJセミナー「光との調和、自然との調和~サンスクリーンに関する最新の処方・評価技術を中心に~」

  • オンラインとのハイブリッド開催。歴史ある大阪市中央公会堂で開催された。
  • 従来の本会場での発表の様子
  • 本会場でも大盛況の質疑応答。オンラインからの質問を聴講しながら列ができる。
  • 肌上の日やけ止め塗膜の可視化技術開発 (株)コーセー 菅 駿一氏
  • サンスクリーン剤に関わる規制・基準の最新動向 粧工連 技術委員会フォトプロテクション部会長  ㈱資生堂 藤原 留美子 氏(© Can Stock Photo Inc. / by mangostock)
第59回SCCJセミナー
「光との調和、自然との調和~サンスクリーンに関する最新の処方・評価技術を中心に~」参加レポート
 2022年9月14日にハイブリッド形式にて開催されたSCCJセミナーに参加いたしました。59回目となるSCCJセミナーでは、7演題の発表が大阪市中央公会堂にてオンサイトにて行われました。
 今回のテーマは「光との調和、自然との調和 ~サンスクリーンに関する最新の処方・評価技術を中心に~」ということもあり、テーマ通り、最新の処方や評価技術を中心に、成分規制や新たなガイドライン等、化粧品業界の共通課題に対する取り組みや、海洋環境・生態系への影響に関する発表が行われ、様々な角度から理解を深めさせていただきました。多くの講演で環境と向き合い、調和するための考え方がそれぞれあり、世界的な環境問題への意識の高まりと共に化粧品技術者として「環境」を強く意識できる内容となっていました。
 全て非常に興味深いものでしたが、近赤外線やブルーライトといった紫外線以外の波長領域の光がもたらす肌への影響についての研究では、それらを抑制することの重要性を知ることができ、今後、我々が開発する製品の価値や重要性もあらためて認識することができました。
 また、「肌上の日やけ止め塗膜の可視化技術開発」として、新たな評価技術についても興味深く拝聴しました。このような塗膜構造が可視化できる技術の開発によって、様々なシーンで利用される製剤の客観的な機能性評価が行えることにより、更なる人体に有効で、かつ環境にやさしい製剤技術の開発に繋がると感じ、評価技術の重要性についても再認識することができました。
 その他、規制の最新動向や生物や生態系に与える影響についての知見等幅広い知識も得ることができました。
今後さらなる処方・評価技術を用い、人間への影響を抑制するだけでなく、規制や環境問題を同時にクリアしていくこと、まさに自然と科学技術との調和が必要であることを改めて考えさせられました。
質疑応答では本会場はもちろん、オンラインからも活発な質問が寄せられていました。
 また、最後にはフリーディスカッション形式による質疑応答が行われました。こちらもハイブリッド形式での開催で、本会場では各ブースにカメラが1台1台設置され、会場の臨場感をそのままオンラインの参加者にもお届けできるような工夫がなされておりました。オンラインで参加した方々も、oVice(バーチャルコミュニケーション空間)を使い質疑することができ、その内容も各ブースではリアルに確認することができました。本会場とオンライン会場の双方で質疑応答を共有できる場となっており、講師・先生方や参加された他社研究者の皆様との活発な意見交換及び交流を行った後、閉会となりました。
 今回、ハイブリッドということもあり、遠方やスケジュール上オンサイトで参加できなかった方も、臨場感をもって参加することができたと思います。
 
 最後に、本セミナーでご講演頂いた、先生・講師のみなさまと企画運営をいただいたセミナー委員の皆様に感謝を申し上げます。
SCCJ広報委員
中原 秀之(日光ケミカルズ株式会社)
清水 徹(東洋ビューティー株式会社)
松嶋 高志(株式会社シーボン)
         



第59 回SCCJ セミナー 2022 年9 月14 日(水)於:大阪市中央公会堂[ライブ配信あり](講演数:7題/参加者:183名)
テーマ:光との調和,自然との調和─サンスクリーンに関する最新の処方・評価技術を中心に─



演題①「 サンスクリーン剤に関わる規制・基準の最新動向」
日本化粧品工業連合会 技術委員会 フォトプロテクション部会 部会長 株式会社資生堂 藤原 留美子 氏

 日本ではサンスクリーン剤の紫外線防止効果の指標としてSPF やPA が用いられている。これらの表示は粧工連が定めた自主基準であり,ISO の国際規格を採用しているため,その改定に伴い更新されていく。近年は,安全性意識の高まりから,国際的なサンスクリーン剤の規制にも変化が生じている。
 本講演では,ISO の定期見直しに伴うSPF やPA に関する自主基準の改訂とそのポイントや,ISO に基づく紫外線防止効果の耐水性の測定方法と表示に関する自主基準の発効,各国の測定法や表示法と紫外線防止に対する考え方の違い,米国のサンスクリーン規制の動向について詳しく学ぶことができた。
 さらに,日本独自の取り組みとして,新たな価値の付与に向けた化粧品効能拡大のチャレンジについても最新の状況をご紹介いただいた。消費者の活動をサポートする高機能なサンスクリーン剤を開発し販売するうえで非常に役立つ内容であった。
(株式会社ノエビア 新垣 健太)

演題②「 サンスクリーン製剤開発の基礎知識(高SPF/PA・耐水性の両立)」
ポーラ化成工業株式会社 中谷 明宏 氏

 本講演ではサンスクリーン製剤において主となる紫外線散乱剤の特長,粒子径や粒子形状,粉体表面処理およびスラリー分散性の改善による機能性向上について,そして紫外線吸収剤配合時の使用感や安定性における注意点を乳化の剤型ごとに説明いただいた。
 サンスクリーン製剤は海やビーチで用いられるため,高い紫外線カット効果だけでなく,水や汗,高波や高濃度の塩に対しても流れ落ちない工夫が必要とされる。そこで粉体の特性と海水の相互作用に着目したシリカ微粒子(シリル化シリカ)を開発した。このシリカ微粒子は海水塩で表面電荷が低下し,斥力の低下によって引力が働き凝集する。乳化剤の代わりにシリカ微粒子を用い,ピッカリングエマルションでの製剤化を試みた。海水により形成されたシリカの凝集体は疎水化され,塗布膜の表面は高い耐水性を得た。また加えて紫外線散乱機能も向上した。この技術により,海水で紫外線カット機能が
一段と高まる画期的な機能をもつサンスクリーン製剤が可能となった。
(牛乳石鹸共進社株式会社 中村 葉子)

演題③「 分散技術を駆使したノンケミカル処方の高SPF 化」
プライミクス株式会社 高橋 唯仁 氏

 紫外線吸収剤を含まず,酸化チタンや酸化亜鉛などの紫外線散乱剤のみで構成されるいわゆるノンケミカル処方において,その散乱剤の分散状態は紫外線防御効果や使用性に大きな影響を与える。本講演では,紫外線散乱剤として微粒子酸化チタンを取り上げ,分散工程に薄膜旋回型高速ミキサー(FM)を適用したときの効果についてご紹介いただいた。FM は遠心力によって薄い液膜を形成させ,その液膜内部での速度勾配から生じるせん断力を用いて粒子を均一かつ微細に分散することができ
る。このFM で調製した酸化チタン分散物を含むサンスクリーン処方(酸化チタンとして5%)では,従来法ではSPF 10 付近だったのものが,SPF 30 付近まで到達できることが確認された。この技術を用いれば,ノンケミカル処方の高機能化に加え,ノンケミカル処方においても紫外線吸収剤や分散剤の使用量削減といった環境負荷低減効果も期待され,「光との調和,自然との調和」という今回のセミナーテーマにふさわしい講演内容であった。
(岩瀬コスファ株式会社 田中 一平)

演題④「 肌上の日やけ止め塗膜の可視化技術開発」
株式会社コーセー 菅 駿一 氏

 日やけ止めは,肌上の塗膜形成状態に依存して機能性が著しく変化するため,製剤開発において,肌上の塗膜状態・経時変化を可視化し評価することが重要である。
 本講演ではこれまでに検討された塗膜のさまざまなイメージング手法の特徴について紹介いただき,これら手法では,塗膜の組成分布イメージングを行いたい場合は不適のため,貫通孔ポーラスアルミナ薄膜を用いて肌上の塗膜をほぼ完全な形で簡単に採取できる手法を開発し,イメージング質量分析によって塗膜の有機成分を可視化することに成功した方法や塗膜変化について得られた知見を発表いただいた。
 本法を用いることで,使用シーンにおける塗膜の耐久性を加味した処方開発を行うことが可能となり,目標とする品質機能のより確実な具現化が可能となり,日やけ止めのさらなる技術革新を期待させる大変有用な講演であった。
((株式会社ナリス化粧品 寺内 友宏)

演題⑤「 太陽光による皮膚温度上昇を抑制する近赤外線防御技術」
花王株式会社 武谷 真由美 氏

 サンスクリーンへのニーズが高まる中,近年は紫外線だけでなく近赤外線の肌への影響も研究されさている。消費者からもサンスクリーンで解決できない不満として,「肌がじりじりする・熱い」があがる。改めて近赤外線の肌への光線作用,熱作用を明らかにした。
 近赤外線を防御することによる皮膚温度上昇抑制,熱さ,じりじり感抑制効果を検証し,さらに素材の探索・評価を進めた。大粒径の散乱剤で近赤外線防御効果を確認することができたが,塗布時の白さが懸念となった。そこで,散乱ではなく干渉による近赤外線防御メカニズムに着目した。素材となる酸化チタンの膜厚を調整して,可視光を透過し,近赤外線を反射する新技術にたどり着いた。設計した薄膜酸化チタンを評価したところ,塗布時の透明性を維持しつつ高い近赤外線防御効果を有することがわかった。また,熱さ・じりじり感抑制効果においても,未塗布に比べて有意に低下することがわかった。
 近赤外線の知見がまだ少なく,フリーディスカッションでの質問も多岐にわたり,有意義な議論が交わされた。
(東洋ビューティ株式会社 前田 拓麻)

演題⑥「 ブルーライトが皮膚に与える影響および有効成分開発」
株式会社資生堂 土田 克彦 氏

 働き方改革への対応や新型コロナウイルス感染症への対策を目的として,Web 会議やパソコンワークが増えている。パソコンのモニター光に含まれるブルーライトから目を保護するため,ブルーライトをカットできる眼鏡レンズが注目を集めている。一方で,太陽光の中に含まれるブルーライトは,パソコンやスマートフォンなどから生じるブルーライトと比較して強度が高く,肌に酸化ストレスを与えることが予想され,講演者は研究に取り組んだ。バイオフォトンの特徴である長寿命な極微弱発光を利用し,酸化状態を可視化し,ブルーライトをカットすることができる成分の効果を可視化するという研究事例の講演をいただいた。
 本講演より,肌におけるブルーライトの影響やバイオフォトン計測法という最新の研究情報が共有化され,今後の化粧品開発に応用・参考とされる内容を学ぶことができたと考えている。
(株式会社ミルボン 伊藤 廉)

演題⑦「 物理的・化学的環境が水界に暮らす生物と生態系に与える影響」
長崎大学海洋未来イノベーション機構 環東シナ海環境資源研究センター 教授 征矢 野清 先生

昨今化粧品業界において,マイクロプラスチックの海の生態系への影響や,紫外線吸収剤の珊瑚に及ぼしている影響が大きく注目されている。本講演では,化学物質による水界を生活の場とする生物への影響を中心にご講演いただいた。日本各地において,オスや未熟メスを調査することで,女性ホルモン作用をもつ環境ホルモンの影響が今でも起き続けていることが示された。現代の下水処理法が,この影響をより強くする可能性があることに,大変な驚きを覚えた。また,体外に排出された環境
医薬品の魚類への影響について,行動のビデオモニタリングにより,新たな生物影響評価基準の作成が可能なことが示された。海に囲まれた日本だからこそ,生理活性の高い残留医薬品の管理指標を確立し,その海水への排出濃度を下げ,さらには,女性ホルモン作用をもつ環境ホルモンを生じさせない,新たな下水処理システムの開発が望まれる。
(癸巳化成株式会社 前澤 大介)