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フォトクロミック [photochromic]

ある物質が光によって着色、消色などの色調変化を起こし、暗下、加熱下、または別の光でもとの色に戻るような性質.フォトクロミズム(photochromism)ともいう.実用化されている身近な例としてフォトクロミックサングラスがある.これは暗いところでは色がない透明のレンズ部分が、太陽光のもとでは銀色に着色するというもので、ハロゲン化銀(AgX)と銅イオン(Cu+)をガラスの中に練り込んだものである.このガラスに光を照射すると、Cu+からAg+への光電子注入が開始反応となって銀粒子の生成が起こり着色する.暗下ではこの逆反応が起こり、消色するのである.また、スピロピランなどの有機化合物では、光によって分子構造が変わることによって生じるフォトクロミックが知られている.たとえば図1の(1)は、中心のスピロ炭素原子(※印)によりπ共役系が遮断されて無色だが、光によって炭素-酸素結合が解裂するとメロシアニン構造(2)へ異性化し発色する.その(2)は、加熱または可視光の照射によりもとに戻るというわけである.このようなフォトクロミック性が最近メークアップ化粧品にも応用されている.
メークアップ化粧品のフォトクロミック
光源が異なれば色の見え方も異なることは一般によく知られており、当然メークアップ化粧品の仕上がりも光源によって影響される.また、人間の視覚機能が周囲の明暗により変化し、色の見え方が微妙に異なることも報告されている.これらの要因からファンデーションなどで仕上げた化粧肌も、光源や明暗による視覚機能の影響を受けるといえる.事実、室内で自然な色に仕上げても屋外の明るい太陽光のもとでは首の色と比べて白く浮いたように見えたり(白浮き)、化粧した肌が室内の蛍光灯のもとでは黄緑色にくすんだように感じられる場合がしばしばある.このような光環境や視覚機能の影響に対応して開発された素材がフォトクロミック顔料とフォトクロミックパール剤である.
フォトクロミック顔料
ファンデーションの白浮きは、しみ・そばかすといった皮膚の欠点をカバーする目的で、高屈折率で可視光の反射率が高い顔料の二酸化チタンが配合されているためと考えられる.この現象を解決するために開発されたのが、光により明度低下が起きて白浮きを防ぐフォトクロミック顔料である.フォトクロミック顔料は、二酸化チタンと酸化鉄とを乾式混合した後、大気中約800℃で焼成した焼結顔料[チタン(Ti)原子の一部を鉄(Fe)原子に置き換えたFeドープ酸化チタン]である.この粉体は400 nm以下の紫外線、とくに360〜380 nmの紫外線UVA照射により色相、彩度はほとんど変化せずに明度低下のみが起こって黒みになり、暗所に放置するともとの明るさに戻るというフォトクロミック性を有する.この特性はドープしたFeのUVによる電子放出と放出電子によるTiの還元(4+→3+)により発生すると考えられている.このフォトクロミック顔料を配合したフォトクロミックファンデーションは、紫外線を有する屋外の強い光のもとでは、粉体の色が黒みになって白浮きを防ぎ、室内では可逆的にもとに戻るので、化粧をした肌はどのような明るさのもとでも自然に見えるのである(図2).
フォトクロミックパール剤
肌の黄ぐすみは周囲の明暗による視覚機能の変化によると考えられる.視覚は明るいところでは黄色から赤色の光を認識しやすいが、暗いところでは緑色の光を認識しやすいという性質がある.したがって化粧した肌も太陽光に比べて暗い室内の蛍光灯下では、より緑がかって黄ぐすんだように見えるのである.このような明度変化だけでは対処できないさまざまな光環境の変化に対応する粉体として開発されたのが、光により明度と色相が同時に変化するフォトクロミックパール剤(演色性粉体)である.フォトクロミックパール剤は青色系干渉光(光干渉)を有する雲母チタンと黄酸化鉄とを乾式混合した後、約900℃で焼成した焼結顔料(Feドープ雲母チタン)である.この粉体はUVA照射により明度が下がり青みのある茶褐色に変化して、暗所では明度が戻り外観の黄橙色をおもに発する.このメカニズムは前述のフォトクロミック顔料と同様であるが、チタンの明度が下がることで干渉色の青色が際立つことが特徴である.この性質を光環境の変化に置き換えると、太陽光のもとでは明度変化による白浮きを防ぐとともに青み補正がされ、室内では緑がかった黄ぐすみが黄橙色へ補正されるということになる.このフォトクロミックパール剤を配合したフォトクロミックファンデーションは、蛍光灯下では黄ぐすみせず血色が感じられる健康的な仕上がりに、また、太陽光下では白浮きしない自然な仕上がりになる.(大野和久、西田勇一、南孝司)

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