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毛髪の電子顕微鏡観察 [observation of hair using electric microscope]

毛髪の微細構造を詳細に観察するために用いられる方法で、用途に合わせ走査型電子顕微鏡(SEM)と透過型電子顕微鏡(TEM)が使い分けられている.走査型電子顕微鏡SEMは、走査電子プローブとしてきわめて細いビームを用いるため、焦点深度が光学顕微鏡に比べて著しく大きい.そのため、凹凸の激しい毛髪サンプルでもほぼ全面に焦点が合うため、キューティクルの剥離やめくれなどの立体的な情報がリアルに映し出される.よって、毛髪キューティクルの表面状態や毛髪断面の観察には有効である.また、観察するサンプルの調整が簡便なこともメリットの一つである.毛髪の研究ではおもに、毛髪損傷状態の確認のために用いられ、キューティクル表面の損傷、キューティクルの枚数の調査、化粧品の有用性確認などが行われている.最近では前処理としてのサンプルの金属蒸着を行わない環境制御型走査電子顕微鏡(ESEM)などが開発され、SEMよりも実生活環境に近い状態での観察が可能になっている.また、SEMとは異なるが、原子間力顕微鏡によりさらに詳細な情報が得られるようになってきている.透過型電子顕微鏡毛髪内部構造の詳細を観察するためにはTEMが活用される(図).TEMは光学顕微鏡における光のように、電子線を試料に透過させて、おもに内部構造を観察するもので、分解能が高いのが特長である.毛髪内部の構造変化を詳細に観察できるため、内部の損傷部分や成分の浸透の有無を確認するのに有効である.しかしながら、このTEM観察は、観察者の十分な知識と高度なテクニックを必要とするため、SEMほど簡単には観察できないという難点もある.その理由の一つにサンプル調整の問題がある.毛髪は通常の生体組織と異なり、SS結合(ジスルフィド結合)が豊富に含有した構成になっているため毛髪自体が非常に硬く、また内部への樹脂の浸透が悪いために、サンプルの調整に時間がかかるという難点がある.現在のところ通常毛髪をTEM観察用サンプルに調整するには2週間?1カ月の時間が必要である.毛髪サンプルの作製の一般的な方法は、試料毛髪の固定をグルタルアルデヒドとオスミウム酸で行い、樹脂包埋は低濃度から徐々に高濃度に置換していくことによって行っている.こうしてできた樹脂包埋毛髪サンプルをウルトラミクロトームで超薄切片とし、さらに酢酸ウラニル染色液とクエン酸鉛染色液で染色を行ってTEM試料とする.これまでに行われたTEM観察により、ケミカル処理によるキューティクルの内部構造の変化が確認されている.この方法で確認できるキューティクル内部構造は、エピキューティクル、エキソキューティクル、エンドキューティクルの3層であるが、パーマ処理やブリーチ処理などのケミカル処理によって、エンドキューティクル部分に損傷が発生することが明らかになった.おな、コルテックス(毛皮質)の損傷や細胞膜複合体の流出も、同様な観察で確認されている.(川副智行)

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