LIBRARY ライブラリー

化粧品と心 [cosmetic and mind]

化粧品は、肌状態、からだ、心に影響を及ぼす.美しくありたい、健康でありたい、心豊かに幸せに生きたい、これらは人類が太古よりもちつづけてきた願望であり、今後も大きく変化することはないと思われる.化粧品は、肌状態、からだ、心に同時に働きかけることでその願望達成の一端を担っているといえる.肌状態を改善させる、いわゆるスキンケア効果を発揮する、また化粧品の成分やそれを用いた美容によって、リラクセーションなどからだ全体に対しても効果を及ぼす、といったことは、効果の検討は個々になされるにしても、最終的には、化粧品が全身系で有意義なものとして考えることができる.化粧品を使用する背景には、自分を慈しむ気持ちがあり、化粧をすることがみずからの身体意識を高め、このことがリラクセーションにつながると考えられている.これらは、スキンケアにおける化粧品と心の関連である.また、化粧によって自分を装うという行為が社会性の増大につながり、自分を活性化させる働きがあると考えられる、すなわちみずから外見の美化に努めることは、他者の存在を認識していることを意味し、社会的存在の明確化を意識したものと考えられる.これらは、メークアップやフレグランス関連の化粧品と心のつながりにおいて現れる.自分らしさを他人に伝えたい、親密な対人関係を築き、維持したい、自分の魅力を高め自信をもって毎日を送りたい、といった気持ちの実現が、化粧の一つの意味であるといえ、この気もち自体は、時代や社会によって大きく異なることはない.しかし、その表現手段である美容法は、文化や時代に応じた美意識の変化に伴い変化する.また、リラクセーション効果を発揮する香り素材の開発や質感、立体感、透明感をコントロールできる最新の光科学技術を用いたファンデーションの開発など、化粧品に関連する素材や技術の進展によって、新しい機能がつけ加えられ、化粧品と心の新しい関連が広がっていくと思われる.現代社会では、精神的なストレスが皮膚、からだ、心に大きく影響するようになってきているが、これに対しても、スキンケアやエステティックにリラクセーション効果、ストレス緩和効果が認められている.また、香料は化粧品とは不可分であるが、香りが心の状態に大きく影響することもわかってきており、さらにこの作用をスキンケアに応用して、ストレスの皮膚機能への影響を防ぐことが可能なことも実証されている.また近年、化粧が高齢者医療に有効であることを示すデータが見られるようになってきた.痴呆症を対象とした老人介護施設では、通常、顔色がわかりにくく介護しにくいなどの理由から、化粧品を使用させないことが多いが、化粧セラピーと名づけて定期的に化粧指導を繰り返したところ、身のまわりのことが自分でできるようになったり、おむつを必要としなくなった例が見られたとの報告がある.化粧によって自分を慈しむ気もち、他人を意識する社会性の再現がこうした効果のきっかけとなったものと考えられるが、化粧品と心とからだのかかわり合いのどのような変化からこの効果が生じてきたかを理解することで、化粧品の将来に、新しい展望が開かれるものと考える.

用語検索

索引