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脱毛 [hair loss、 alopecia、 depilation]

脱毛とは、①毛が抜け落ちること、②通常では存在しなければならない毛がないかその数や太さが減少していること、③不要の毛を除去すること(むだ毛の処理)をいうが、特記すべきは②である.毛髪は毛周期(ヘアサイクル)を繰り返しながら成長、脱落を繰り返し、ヒトにおいては毛周期は毛の1本ごとに独立しており、ほかの動物のように同調することはなく、一斉に休止期となって毛が抜け替わるようなことは通常はない.ヒトの頭髪の場合、成長期が約3〜5年、退行期は2〜3週間、休止期は約3カ月といわれている.成長期毛の割合は約85〜90 %、退行期毛の割合が約1 %、休止期毛が約10 %とされており、また頭髪の成長速度は0.3〜0.5 mm/日といわれている.頭髪は約10万本あるが、そのうち約10 %、つまり約1万本が休止期で、休止期毛が休止期の3カ月の間に抜けるとすると1日あたり約100本が抜け落ちる計算になる.脱毛の原因男性型脱毛症の場合は、男性ホルモン関与による毛包機能の低下が原因と考えられている.これ以外の脱毛症は、①毛包、毛球部の新陳代謝機能の低下、②頭皮整理機能の低下、③頭皮のつっぱりによる局所血流障害、④栄養不良、⑤ストレス、⑥薬物による副作用、⑦遺伝などによって発生する、と考えられている.一方、ふけの過剰発生により毛口をふさいでしまうと、毛根の働きが悪くなり脱毛症を発生したり、頭皮の炎症が脱毛症の原因となる場合も報告されている.脱毛の種類通常、成長期脱毛と休止期脱毛あるいは後天性脱毛症と先天性脱毛症に大別され、また、男性型脱毛症、円形脱毛症、休止期脱毛症、産後脱毛症、外傷性脱毛症、老人性疎毛症、炎症性脱毛症、脂漏性脱毛症、粃糠性脱毛症、発毛不全などに分類される場合もある.一般に育毛剤の使用対象は、軽度の男性型脱毛症(女性を含む)、円形脱毛症、脂漏性脱毛症などである.以下に代表的な脱毛症について述べる.
(1)男性型脱毛症(androgenetic alope-cia)
原因は男性ホルモンにあることが、医学者ハミルトンによって報告されている.それによると、思春期に去勢された男性に男性型脱毛症は発症せず、脱毛のある人を去勢した場合に脱毛はそれ以上進行しないこと、また去勢後、男性ホルモンの一つであるテストステロンプロピオネートを投与すると、脱毛症の家系のヒトでのみ脱毛が進行するという.つまり、いったん生じた脱毛は、たとえば男性ホルモンの作用を弱めるために去勢しても進行は止まるが、もとの状態には戻らない.男性型脱毛症患者の脱毛進行部と健常部を比較すると、毛周期の短縮化により、脱毛進行部では成長期毛包が見られず、硬毛(終末毛)と軟毛の中間の形態、いわゆる中間毛のみが観察される.したがって、この脱毛症には遺伝が強く関与していることも示されているが、いまのところ後天性脱毛症に分類されている.
(2)円形脱毛症(alopecia areata)
境界明瞭な類円形の脱毛が突然生じる疾患である.本症の発症年齢は比較的若く、過去の集計では25歳以下で75%、若い女性の発症率が高いとの報告がある.脱毛は頭毛に限らず眉毛、まつ毛、髭(ひげ)、腋(わき)毛、陰毛そして体毛とあらゆるところに生じ、一般に大きな自覚症状はないが脱毛初期に軽い痛み(ピリピリ感)を伴うことがあるとされる.脱毛早期にはごみのような黒点(短く太い毛)を見ることが多いが、これは容易に抜け、毛幹部から毛根部にいくに従って細くなり、突端が球状の英語の感嘆符(!)に似ている形から感嘆符毛といわれる.毛組織を観察してみると表皮から脂腺部までの毛包は中には小さくなるものもあるが大きな変化はなく、毛乳頭*・毛母の細胞間の接着が乱れ毛乳頭細胞そのものに変化が生じるとの報告もある.円形脱毛症は成長期毛包で発現されるタンパク質(抗原)に対する自己免疫疾患と考えられており、細胞性免疫にも液性免疫にも異常のある場合に発症するとされている.
(3)休止期脱毛症(telogen effluvium)
頭髪では生理的には1日あたり約100本が抜け毛となると計算されるが、この生理的脱毛が異常に増加する状態をいう.円形脱毛症と異なり、び漫性に起こる.原因は持続性高熱、難産、外科的ショック、大出血、精神的ストレスなど種々のストレスがいわれている.産後脱毛症もこれに分類され、出産後に毛が抜けやすくなることをいう.産後脱毛は分娩後2〜4カ月して始まることが多く、出産後3カ月以後では約半数の母親が自覚するとの報告もある.脱毛は前頭部から始まり頭髪全体にまばらに広がる.また、体毛も減少する傾向にある.その原因はホルモンバランスが崩れるためとされる.妊娠後期には、ホルモン、とくに女性ホルモンの一つである卵胞ホルモン(エストロゲン)の影響によって多くの毛は正常の毛周期において成長期から休止期への移行が遅れる.そうして毛の正常の自然脱落が遅れていたものが、分娩後、その影響が除かれて一度に休止期に入り、抜け始めるという.したがって、産後脱毛症は休止期脱毛に分類される.この産後脱毛症は個人差があるものの、2〜6カ月つづいた後しだいに回復していく.しかし中には産後脱毛症になった後継続的に薄毛の状態となる人もある.
(4)外傷性脱毛症(traumatic alopecia)
摩擦、牽引(けんいん)、圧迫などの物理的外力によって生じる脱毛をいう.生後数カ月までの新生児において後頭部の毛が、枕との摩擦で自然に脱落することがある.新生児脱毛といい、後頭部の毛は生後まもなく毛の交代が始まり休止期毛になるという新生児の頭髪の特性のため生じるもので、自然に治癒する.毛髪の牽引を長期間一定部位に繰り返すことにより生じる牽引性脱毛は、髪を強く牽引するポニーテールのような髪型やヘアカーラーを強く巻く習慣などが長期間繰り返されることで起こるが、通常牽引をやめることで回復する.圧迫性脱毛は被髪部の一定部位が数時間にわたって強い圧迫を受けた場合、その後1〜4週間後に圧迫部位に見られるようになる脱毛の症状をいう.手術時の頭部の固定によるもの(術後脱毛)や日本髪のかつら止めによるものなどがある.数カ月後には回復する.(辻善春、濵田和人)

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