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生分解性 [biodegradability]

自然環境中での微生物の活動に基づく有機物の生物化学的な分解を生分解といい、ある基質の生分解の受けやすさを生分解性という.微生物は有機物を摂取し細胞物質に転化したり、呼吸によって酸化分解して自分が活動するエネルギーを得たりする.生分解は、①第一段階の生分解、②環境受容的生分解、③究極的生分解の3段階に分けると理解しやすい.①は、物質の性質が失われるのに必要な最小限度の生分解である.②は、物質がそのままの状態で残存しても生態系に悪影響を及ぼさない程度までであり、③は有機物すべてが無機物に変換されるまでを示す.酸素が不足した環境では微生物は酸素を用いない嫌気的生分解を行うのでメタンを発生するが、酸素が豊富な環境中では好気的生分解を行うので、究極的には二酸化炭素と水に分解される.
自然の浄化作用と排水処理
自然界では、微生物による自然の浄化作用で有機物が十分な時間をかけて分解され再利用される.しかし、ヒトの生活排水に含まれる有機物は、あまりに大量で、河川や海に排出されるものの、自然の浄化能力を超えている.急激な栄養過多(富栄養化)により微生物や藻が異常に繁殖すると、水の流れによどみをつくり水域の溶存酸素を減少させるなどの状態に陥る.このような現象を引き起こさないよう、多くの都市下水道の末端には終末処理場が設置されている.処理場には、自然界から細菌、真菌、原虫あるいは環形動物などを選んで微生物相を形成させた活性汚泥のプールが設置され、生活排水の強制的な浄化が行われている.
有機化合物が生分解を受けにくいと自然の循環に組み入れられずに残存することになり、土壌への蓄積や生物の体内に濃縮貯蔵される可能性が大きくなる.このため、環境保全の観点から有機物は生分解性が高い(易生分解性)ほうが好ましいと考えられる.
生分解の測定
生分解の程度は、有機物と微生物との暴露時間に伴う種々の物質の計測値の変化で知ることができる.計測されるのは、①対象とする有機物、②有機物が示す性質(界面活性、毒性など)、③有機物として存在する炭素量(全有機体炭素:TOC)、④微生物の呼吸に基づき減少する溶存酸素量(生物化学的酸素要求量:BOD)、⑤二酸化炭素の発生量などである.生分解の観測、測定にあたっては、目的により観測対象の選定が重要である.さらに、基質や微生物の濃度、接触時間や温度の設定、密閉、開放や放置、振透、かくはん、ばっ気など酸素供給の有無と供給方法などによりさまざまな試験方法が考案されている.日本をはじめ米国、ドイツ、英国など多くの国で、新規な化合物についての生分解性の評価が法律により義務づけられており、界面活性剤には目標生分解度を設定している国も少なくない.日本では化学品審査法において新規物質についての生分解試験が義務づけられている.(橋本克夫)

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