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育毛剤 [hair growth promoting product、 hair growth promoter]

一般に、アルコール水溶液に各種の薬効成分、保湿剤、油分、香料、色素、可溶化剤などを添加した外用剤で、頭部に用いて頭皮機能を正常化し、また頭皮の血液循環を良好にして毛包の機能を高めることにより、発毛、育毛促進および脱毛防止、同時にふけやかゆみを防止するもの.一般に用いられているおもな有効成分は、血行促進剤、毛母細胞賦活剤、抗男性ホルモン剤、抗炎症剤、ふけ抑制剤、頭皮の鎮痒剤、頭皮の保湿剤、頭皮の浸透促進剤がある(表).配合成分の種類や配合量、効能効果の差異によって化粧品、医薬部外品、一般医薬品、医療用医薬品の4種類に分けられる.(1)血行促進剤(blood circulation acceler-ator)毛髪は毛母細胞*の分裂増殖とその分化によって成長するため、毛成長を維持するには毛包部への血液供給が重要である.血液が局所の細胞に栄養を供給し、老廃物を取り除く役割をもつためである.男性型脱毛症や円形脱毛症を含む脱毛症の頭皮では毛細血管機能が低下するとされており、とくに円形脱毛症の場合は血管密度の顕著な減少が報告されている.育毛剤に配合されている代表的な末梢血管拡張剤あるいは毛根刺激剤には、塩化カルプロニウム、トコフェロール(ビタミンE)および酢酸トコフェロールなどの誘導体、トウガラシチンキカンタリスチンキセンブリエキス、ニンニクエキス、ニコチン酸ベンジルがある.また、臨床試験報告がなされている血管拡張剤としては、ミノキシジル、ベタメタゾン-17、21-ジプロピオネート、プロスタグランジンE2など多数あげられる.ミノキシジルは微弱な持続性血行促進作用を有し、毛乳頭*の血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現を高める血圧降下剤として開発され、副作用で毛が濃くなることからその有効性が推定された.また、ジアゾキサイド(降圧剤)やフェニトイン(抗てんかん薬)についても、副作用として多毛症をもたらすことが知られている.(2)毛母細胞賦活剤(hair matrix cell aug-menting agent)育毛剤には毛包細胞への栄養補給、あるいは毛母細胞の酵素活性の賦活による毛成長の促進を目的として、ビタミンアミノ酸生理活性成分が配合されている.ビタミンとしては、ビタミンA(ビタミンAアセテート)、ビタミンB1、B2、B6(塩酸ピリドキシン)、ジアルキルモノアミン誘導体、ビオチン、パントテン酸カルシウム、パントテニルアルコールなどがあり、またアミノ酸としては、メチオニン、シスチン、システイン、セリン、ロイシン、トリプトファン、アミノ酸エキスなどである.とくにビタミンは補酵素として毛が成長する過程に深く関与しており、ビタミンの欠乏により脱毛、毛成長の阻害あるいは毛の質的低下が起こることが知られている.また、種々の生薬成分にも毛母細胞の分裂増殖・分化あるいは角化に影響を及ぼすものがあり、オトギリソウエキス、オウゴン、トウキンセンカ、ニンニクエキス、ニンジンエキス、ポルフィリン系化合物、ミネラル類などがある.また、毛包に対するエネルギー供給作用が報告されているペンタデカン酸グリセリドも一種の細胞賦活成分と考えられる.(3)男性ホルモン(androgen)ステロイド骨格をもった物質のうち、C19-ステロイドとよばれるものの総称.ヒトにおいて、男性では1日に約6 mgが、女性で約0.01 mgが生合成される.男性ホルモンの主体であるテストステロンは、細胞内の5α−レダクターゼにより活性型の5α−ダイハイドロテストステロン(DHT)に変換され、男性ホルモン受容体(AR)と結合して二量体となり、さらに転写共役因子(コファクター)とも会合する.このDHT-AR複合体は、核の非ヒストン領域と支持体であるレスポンスエレメントを介して結合することでDNA合成レベルでの情報を伝達し、結果として、細胞の増殖や周期を制御する.また、男性型脱毛症患者は皮脂の分泌が多いことから、男性ホルモンによる皮脂腺の肥大の影響も指摘されてきている.(4)抗男性ホルモン剤(anti-androgen agent)男性型脱毛症が主として男性に発生することは以前から知られており、男性ホルモンが関連するとされている.この推定から育毛剤に配合する抗男性ホルモン(5α−レダクターゼ活性阻害および男性ホルモン受容体結合阻害)剤として、女性ホルモンであるエストラジオール、エチニルエストラジオールなどや、前立腺肥大症の治療薬であるフィナステリド、RU58841、LY-191704、オキセンドロンが考えられる.また、体内にある男性ホルモンに拮抗する作用を有する物質としては、スピロノラクトン、プロゲステロン、サイプロテロンアセテート、4-アンドロステン-3、 17-ジオンなどが、植物由来エキスではオイゲニルグルコシド、チョウジエキス、クアチャララータエキス、デュークエキス、ホップエキスなどがあげられる.(5)抗炎症剤(anti-inflammatory agent)頭皮の炎症をおさえることによって頭皮を良好な状態に保ち、脱毛を予防し、毛の成長を促進しようとする考え方から育毛剤に用いられる.やや消極的ではあるが脱毛の進行を抑制する点では合理的と考えられる.頭皮の炎症を抑制する抗炎症剤にはアズレン、アラントイン、グリチルリチン・グリチルレチンおよびその配糖体(グリチルリチン酸ジカリウムなど)、塩酸ジフェンヒドラミン、酢酸ヒドロコルチゾン、プレドニゾロンなどがあげられ、整髪剤にも配合されている.(6)ふけ抑制剤(anti-dandruff agents)男性型脱毛症の初期(脱毛が始まって1年以内)では85%に、中期(脱毛が始まって4年まで)では70%にふけが見られ、頭皮での軽い炎症が起こる.頭皮を清潔にしてこの炎症をおさえることは毛の成長によい環境を提供することになる.ふけ抑制剤としては、殺菌剤、角層溶解剤、抗脂漏剤(→皮脂分泌抑制剤)があげられる.殺菌剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロルヘキシジン、ヒノキチオール、フェノール、イソプロピルメチルフェノール、ビオゾール、感光素101、感光素201などが、角層溶解剤としてはサリチル酸、レゾルシン、フェノールなどがある.抗脂漏剤としては、硫黄、ピリドキシンおよびその誘導体、レシチン、ジエチルスチルベストロール、チオキソロンなどがある.(7)頭皮の鎮痒剤(anti-pruritic agent for scalp)育毛剤には頭皮のかゆみをおさえるため、鎮痒剤が配合される.鎮痒剤としてはアズレン、アラントイン、グリチルリチン・グリチルレチンおよびその配糖体(グリチルリチン酸ジカリウムなど)、塩酸ジフェンヒドラミン、酢酸ヒドロコルチゾン、プレドニゾロンなどがあげられる.(8)頭皮の保湿剤(moisturizer for scalp)保湿によって頭皮の状態を整えることで育毛効果を上げる場合がある.頭皮の保湿剤としては可溶性コラーゲン、グリセリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ピロリドンカルボン酸、プロピレングリコール、ミニササニシキ抽出エキスなどがあげられる.(9)頭皮の浸透促進剤(percutaneous ab-sorption promoting agent for scalp)配合されている有効薬剤が皮膚へ浸透するのを高める薬剤を経皮吸収促進剤とよび、近年、注目を集めている.例として、l-リモネン、ビサボロール、水素添加ビサボロール、l-メントール、デルアミドなどである.(辻善春、濵田和人)

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