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パーマネント・ウェーブ [permanent wave]

ヒト毛髪(ケラチン)中のSS結合(ジスルフィド結合)を還元剤で部分的に切断し、つぎに酸化剤で再結合させることにより、毛髪にウェーブを与え、またくせ毛を真っすぐにさせるなど、毛髪を永久的に変形させることの総称(図1、図2).たんにパーマ、ウェーブあるいはストレートパーマともよばれる.
ウェーブ剤の変遷
はるか紀元前、女性は髪に泥を塗って棒に巻き、天日で乾燥させてカールを得ていたとされている.1905年にドイツのNesslerはホウ砂のアルカリ水溶液を使用し、電熱により加熱(上部から何本もの電気コードをぶら下げて髪を巻いたカーラーを加熱)する方法を考案した.これは、大正末期から昭和初期の日本でも電気パーマ(電髪)と称され流行した.1940年に米国のMcDonoughは、コールドパーマを発明し、チオグリコール酸のアルカリ水溶液を使用して加温することなく毛髪にウェーブが与えられることを見出した.これが現在のウェーブ剤の基本となっている.戦後の日本(昭和20年代後半)では、この米国コールドパーマが急速に普及したが、施術が不慣れなこともあり、断毛や皮膚安全性上のトラブルがつづいたため、昭和51年(1976年)には、“コールド・パーマネント・ウェーブ用剤最低基準”が制定された.その後何回かの改正が重ねられ、現在ではパーマ剤は薬事法上、医薬部外品に指定され“パーマネント・ウェーブ用剤製造(輸入)承認基準”として厚生労働省により規制されている.
パーマ剤の毛髪に対する作用
毛髪はケラチンとよばれるシスチンに富むタンパク質が主成分で、多くのアミノ酸がペプチド結合でつながったポリペプチド鎖(主鎖)が水素結合、塩結合、ペプチド結合およびジスルフィド結合などでつながった網目構造を形成しているため、硬くて弾力性のある性質をもっている.パーマネント・ウェーブは、このジスルフィド結合に対する化学作用を利用したものである.パーマ剤1液にはチオグリコール酸またはシステインなどの還元剤とアルカリ剤が含まれている.1液を毛髪に塗布すると、アルカリ剤により髪が膨潤し還元剤が毛髪中に浸透し、ジスルフィド結合が部分的に切断されてシステイン残基となり毛髪は軟らかくなる.次に2液を塗布すると、2液中の臭素酸ナトリウムまたは過酸化水素などの酸化剤により、システイン残基は酸化されふたたびもとのジスルフィド結合に復元され毛髪は硬くなる(図1).
ウェーブの形成
毛髪をロッドに巻くと曲げにより毛髪内部にひずみ応力が生じる.1液を塗布すると1液の還元作用により毛髪は軟化するが、それと同時にこの応力を解消しようとして主鎖の流動が生じ、システイン残基の位置が移動する.中間水洗により余分な1液を洗い流し、次に2液を塗布すると2液の酸化作用によりシステイン残基はもととは異なった位置でジスルフィド結合に再結合される(図2).その結果、ロッドを外した後に毛髪はウェーブ状となるが、このジスルフィド結合は強い共有結合であるため、後の洗髪でウェーブがとれることがなく数カ月間はウェーブが保たれる.ストレートパーマは、1液、2液が粘調なクリーム剤型となっており、くせ毛に1液を塗布し、くしでとかしながら毛髪を真っすぐにさせ、一定時間後に中間水洗し、次に2液を1液と同様に施術、最後に水洗することでくせ毛を真っすぐに伸ばすことができる.毛髪に対する1液、2液の化学作用はウェーブの場合とまったく同じである.
パーマ剤の種類
“パーマネント・ウェーブ用剤製造(輸入)承認基準”に示されているパーマ剤の種類には、ウェーブ剤として1液の主成分(還元剤)がチオグリコール酸系(HS-CH2-COOH)とチオ乳酸系(CH3-CH(SH)-COOH)そしてシステイン系(HS-CH2-CH(NH2)COOH)に分けられ、また使用目的からウェーブ剤と縮毛矯正剤に、さらに使用方法からコールド式(加温しない)と加温式(60℃以下)など8種類に細かく分類されている.ストレートパーマ剤(縮毛矯正剤)はチオグリコール酸系のみが使用される.2液の酸化剤には臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、過ホウ酸ナトリウムおよび過酸化水素水が認められているが、日本では臭素酸ナトリウム、欧米では過酸化水素水がよく使用されている.チオグリコール酸系パーマ剤は強いウェーブ力を与えることができるが、背反的にある程度の毛髪のダメージは避けられない.健常な髪に、強いウェーブを求める場合に使用される.システイン系パーマ剤は、毛髪のダメージは少ないが強いウェーブ力は期待でず、ヘアカラーやブリーチなどで傷んだ髪に使用されることが多い.(→チオ乳酸パーマ)
パーマネント・ウェーブはヘアサロンの美容師(国家試験による資格取得者)が行う.顧客のウェーブスタイルの要望と髪の状態によりウェーブ剤が選定され、また間違いのないように、テストカール(設定した1液の施術時間よりも前に1〜2本のロッドを外し、ウェーブのかかり具合を調べる)も実施されている.髪にウェーブをつけることで印象が変わり、また毎日行う整髪も容易になるなどその美容効果は大きなものがある.昔からのこのような美しさへのあこがれとともに、パーマネント・ウェーブ剤の化学は進化してきている.これからも、さらに安全で使いやすくヒトにやさしいパーマ剤の開発が進んでいくものと思われる.
ウェーブ効果(waving effect)
パーマ剤を毛髪に施術することにより得られる“ウェーブをもたせ、保つ”効果のこと.毛髪をロッドに巻きパーマ剤1液、2液施術後にロッドを外すと、毛髪にはウェーブが形成される(図).ウェーブ効果としてウェーブ力、ウェーブの均一性(根元と毛先のウェーブの差)、ウェーブの弾力性(コームアウトしたときのウェーブの戻りやすさ)およびウェーブの保ちやすさ(経時変化)などが重視される.ウェーブ効果は、パーマ剤の品質、髪質(傷み具合や太さなど)やパーマ技法(ロッドの太さ、処理時間・温度、毛髪をロッドに巻くときのテンションなど)により結果が異なり複雑である.美容師は顧客の要望にそうよう髪質チェック、パーマ剤の選定およびパーマ技法などを考慮しなければならない.とくに液をつけてからの処理時間については、途中にテストカール(ロッドを1、2本外しウェーブのかかり具合を判断)を行うなど、間違いのないウェーブに仕上げられるように細心の注意が払われている.ウェーブ効果の評価法にはキルビー法が用いられる.現在もっとも汎用されているその方法は、過去にパーマネント・ウェーブやヘアカラーなどの化学処理を行ったことのない毛髪20本、長さ約20 cm、毛根から毛先までをそろえた毛束を所定の測定器具にジクザクに固定し、パーマネント・ウェーブ用剤による処理を行った後にえられたウェーブの波長を測定し、ウェーブ効果を数値化する.そのほか、市販のスパイラルロッドを用いて、キルビー法同様に毛束を巻きつけてウェーブ効果を数値化する方法もある.(植村雅明、久保早苗)

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