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メラノサイト刺激ホルモン [melanocyte-stimulating hormone]

プロオピオメラノコルチン(POMC)とよばれる前駆物質から、特異的な変換酵素であるプロホルモンコンバターゼ-1,-2によって酵素的に切り出されることにより生じるペプチドホルモン.MSHと略し、メラノトロピンともよばれる.1912年に Fuchsによりカエルをウシ脳下垂体抽出物で処理するとその体色が黒色に変化することが見出され、後にこの現象は脳下垂体中葉で生産されるMSHがカエル皮膚中のメラノサイトに存在するメラニン顆粒を拡散させることによって黒くなることが解明された.α-MSH、β-MSHおよびγ-MSHという共通配列を有するペプチドファミリーとして知られている.α-MSHは13アミノ酸残基より構成され、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)のN末端側1〜13番目のペプチドに相当する.動物の種類による配列の違いは認められておらず、N末端はアセチル化、C末端はアミド化されている.β-MSHはγ-リポトロピン(γ-LPH)のC末端部分に相当する18アミノ酸残基からなるペプチドで、動物の種類によりその構造に多少の違いが認められる.α-MSHとβ-MSHは活性中心と考えられている配列、His-Phe-Arg-Trp-Gly(α-MSHでは6〜10位、β-MSHでは9〜13位)が共通配列として存在する.γ-MSHは、POMCのN末端部分からACTH部分の間に存在している12アミノ酸残基からなる糖鎖を有するペプチド(動物種により大きさと糖鎖の有無に違いがある)で、His-Phe-Arg-Trp(5〜8位)の配列をもっている.ヒトやマウスなどの哺乳類においても、またメラノサイトに対するMSHの直接的な作用、すなわち細胞増殖促進あるいはチロシナーゼ活性化、メラニン合成促進について明らかにされている.この作用はβ-MSHよりもα-MSHで強く、ACTHにもわずかに認められる.ヒト皮膚中で作用しているMSHの大部分は下垂体由来のものではなく、皮膚を構成する細胞自身が分泌するものであると考えられている.メラノサイト自身でも発現が認められるがほとんど分泌しないことから、ケラチノサイト(表皮角化細胞)から分泌されるMSHがメラノサイトのメラニン産生を活性化しているものと考えられている.この機序は紫外線によるメラニン産生活性化の原因の一つとしても注目されている.紫外線刺激はケラチノサイトでのMSHの分泌を増加させたり、メラノサイトの表面に存在する中性エンドペプチダーゼであるネプリライシンの発現および活性を低下させ、ネプリライシンによるMSHの分解を抑制する.MSHはメラノサイトの表面に存在する特異的なレセプターと結合してはじめて応答が開始されるが、紫外線照射はまたメラノサイト上のMSHレセプターの数を増やす作用もあり、MSHとレセプターの結合を促し細胞内にMSHの信号を伝えやすい状態となる.現在MSHのレセプターとして、メラノコルチン-1レセプター(MC1R)からMC5Rまでの5種類が同定されているが、皮膚におけるメラノサイトの活性化に関してはMC1Rが寄与するといわれている.赤毛の髪、色白で日焼けをしないタイプのヒトにおいて、MC1Rに変異が認められる頻度が非常に高いとの報告もある.さらに紫外線による色素沈着だけではなく、肝斑などの色素沈着異常においてもMSHの増加が認められると報告されている.(落合康宣)

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