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メラニン [melanin]

広義には動植物界に広く存在する褐色ないし黒色の色素の総称である.メラニンの質や量はヒトにおいては皮膚や毛髪の色を、また、ほかの動植物においても色彩を決定する重要な因子の一つである.ヒトの場合、メラニンが分布している主要な部位は、皮膚、毛髪、眼球である.おもに2種類が生成され、それぞれユウメラニンとフェオメラニンとよばれている.狭義にはユウメラニンのことをさし、美容上のトラブルであるしみなどは、このユウメラニンの過剰産生が原因となっている.メラニンは生体内高分子であるが、タンパク質やDNAとは違ってその構成単位の配列は不定であり、このため分子量も不定である.また、生体内ではメラニンは単独で存在しているのではなくタンパク質と強く結びついて複合体として存在している.(1)ユウメラニン[eumelanin)黒色ないし褐色のメラニンで、水や有機溶媒には溶けず希アルカリにも難溶である.メラニンといえば、このユウメラニンをさすことが多い.チロシンを出発物質としてチロシナーゼの作用により生じたドーパキノンがドーパクロムに変化し、さらに自動酸化あるいは酵素の作用を受けユウメラニンへと変化する.天然のメラニンの分析からインドール核を含むことがわかっており(図1)、メラノサイト内で生じる5、6-ジヒドロキシインドール(DHI)や5、6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸(DHICA)などがおもな構成単位となって重合した結果、生じると考えられている.(2)フェオメラニン[pheomelanin)赤色ないし黄色のメラニン.黒褐色のユウメラニンがアルカリ難溶であるのに対し、希アルカリに可溶であり、硫黄を多く含むという特徴をもつ.ヒトや動物の赤毛や鳥類の赤い羽などに含まれている.チロシナーゼの作用によりチロシンからドーパキノンが生じるまではユウメラニンと同様の経路をたどるが、その後ドーパキノンにシステインが付加することによってシステイニルドーパが生じ、ユウメラニンとは異なる経路を経て生成される.
合成
メラニンは、メラノサイトとよばれる細胞内で合成される.メラニンの生成経路概略を図2に示した.メラノサイト内では、メラニン生成に必須の酵素であるチロシナーゼの作用により、アミノ酸の一種であるチロシンを出発物質としてドーパが生じる.ドーパはさらにもう一度チロシナーゼの作用を受けてドーパキノンに変化する.ドーパの溶液を室温で放置すると不溶性の黒いメラニン様物質を生じることから、ドーパ以降の反応は酵素的助けがなくても進行すると考えられ、チロシンがチロシナーゼの作用でドーパになる反応こそがメラニンの合成にもっとも重要であるといえる.生体内ではチロシナーゼの働きでドーパキノンが生成され、引き続き酵素の助けなしにドーパクロムへと変化する.ただし、赤毛の毛包部などではドーパクロムへは進まずに、ドーパキノンがシステインと反応し、その後数段階の変化を経てフェオメラニンを生成する経路へと導く.ドーパクロムに進んだ場合は酵素的作用によりDHICAが生じるか、酵素的作用を受けずにDHIが生じる.そして、これらのメラニン前駆物質がおもな構成単位となって重合するとユウメラニンが生じる.
働き
メラニンは紫外線から可視光にかけて幅広い吸収能をもっている.紫外線の作用は日常的には日光による日焼けとして認識され、長期的にはしわやしみの形成として現れる.さらに発がん作用もあり皮膚がんを生じさせることもある.皮膚におけるメラニンのおもな働きは、皮膚をこのような有害な紫外線から防御することである.皮膚の組織片を顕微鏡で観察すると、基底層付近にあるケラチノサイトの細胞核の上に帽子状にメラニンが集まり(核上帽)、細胞核を紫外線から守っている像が見られる.メラニンが紫外線の作用を軽減することは、白人のほうが黄色人種よりも光老化によるしわが深いことや、臨床的に黒人よりも白人のほうが皮膚がんの発生率が高いことから推測される.このほか、紫外線とメラニンがかかわる現象としては、即時型黒化とよばれる皮膚反応が知られている.この反応は紫外線A波を受けた皮膚が一時的に灰黒色に変化する現象であり、そのメカニズムは淡色の還元型のメラニンが濃色の酸化型メラニンに変化するためであるとされている.この現象の生物学的意義に関してはよくわかっていない.メラニンは紫外線防御以外の働きももち、生体内で生じた活性酸素などのラジカルのスカベンジャーとして働く機能や、体内の重金属や薬物と結合し排出する機能もある.[佐藤潔、前田憲寿)

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