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ターンオーバー [turnover]

基底層におけるケラチノサイトの増殖と、角化の過程、角層剥離は、絶え間なく行われている.その生まれ変わりをターンオーバーという.健康な皮膚においては一定のリズムでターンオーバーが繰り返されているため、その生まれ変わりには気づかないことが多い.しかし、ターンオーバーのリズムが乱れると、肌荒れなどのさまざまなトラブルを引き起こす.その状態は多様で形態的な特徴を伴う場合が多い.(1)角化亢進[hyperkeratosis]表皮のターンオーバーが異常に速まり、その結果、角層の過剰形成や角層剥離の遅延が生じ角層が厚くなる.皮膚の外観が荒れることが多い.(2)不全角化[parakeratosis]錯角化ともいう.角化過程が不完全であり、本来、角層に至る過程において消失するはずの“核”が残存し、角層での有核細胞の出現を特徴とする.急激なターンオーバーのために核の消失がまにあわずに生じるか、核の分解過程に異常があると考えられるが、一般には増殖が盛んな表皮において出現しやすい.有核細胞の検出は比較的容易で、テープストリッピングなどによって採取した角層細胞をヘマトキシリン(皮膚組織などを染める染色剤)などによって染色し、顕微鏡観察して行う.角層細胞中の有核細胞の割合を有核細胞率とよび、不全角化の指標としてよく用いられている.角化の調節角化の過程はきわめて巧妙なメカニズムによって制御されており、その調節機構も複雑である.上皮細胞成長因子(EGF)やインターロイキン-1などのサイトカインに代表される液性因子は、ケラチノサイトの細胞膜上の特異的な受容体を介して、さらには、細胞内情報伝達機構を介して、遺伝子発現を調節し、増殖あるいは角化を制御している.また、ビタミンAやビタミンDなどは、ケラチノサイトの核内にある受容体に結合し、遺伝子発現を調節して増殖あるいは角化を制御している.細胞機能の調節は、これらの液性因子によるものばかりではなく、細胞外マトリックスと相互作用する、細胞膜上の接着因子(たとえばインテグリン)を介した情報伝達機構によるものも知られている.角化の乱れを正常化することによって効果を発揮する薬物も知られており、たとえばビタミンA類は角化を抑制し、ビタミンD類は角化を促進する.また、異常な増殖亢進を伴う場合においては、グルココルチコイドなど細胞増殖を抑制する薬物により角化の乱れを調節することも可能である.また、角層溶解剤によって堆積した角層を除去し、あるいは、保湿剤などによって角層保湿機能を補うことも、角化の乱れを間接的にコントロールするのに有効である.(平尾哲二)

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