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制汗剤 [antiperspirant]

汗腺を閉塞あるいは収れんさせることによって、発汗量を減少させようとする薬剤.制汗剤は、20世紀初頭に米国で塩化アルミニウムが用いられたことから始まる.しかし、塩化アルミニウムは使用感が悪く、皮膚刺激があり、さらに衣服を劣化させるため改良が検討され、1947年に部分中和した塩化アルミニウム水和物(クロルヒドロキシアルミニウム、以下ACHと略)が開発された.ACHは塩化アルミニウムに比べて中和する必要がなく、皮膚刺激性も弱いという優れた性質をもつため、現在に至るまで制汗剤に配合される発汗をおさえる成分の主流となっている.1970年代には制汗効果がさらに向上した塩化アルミニウム-ジルコニウム複合塩が米国で開発されたが、動物への長期吸入試験で肺の異常が認められたためエアゾール型への配合が禁止され、日本では使用されていない.ACHは、水溶液を皮膚に塗布するといったん乾燥してACHが析出するが、発汗して水分を吸収するとゲル化して汗腺を閉塞するので発汗量を抑制するといわれている.
制汗効果の測定方法は、①発汗の水滴を着色できるデンプン-ヨウ素反応などの視覚的方法、②発汗に伴う皮膚状態の変化である水分損失や皮膚水分を機器的に測定する方法、③実際の腋(わき)の下での発汗重量を測定する方法、の三つに分類される.米国においては制汗剤は大衆薬(OTC)に分類されるため、米国食品医薬局(FDA)のガイドラインに従って制汗効果を評価する必要があり、厳密な条件下で測定し、対象者の50%以上が制汗効果20%以上を示さなければ表示できないことになっている.なお、米国では、制汗剤を配合した製品の制汗率はおおむね30〜50%であると報告されている.ACHの開発以降、改良が重ねられており、より刺激を低減させた乳酸やプロピレングリコールとの複合体や、低分子量画分の多い活性化ACHなどが開発されている.また日本では、ACHのほかにパラフェノールスルホン酸亜鉛が制汗成分として認められている.これはゲル化による閉塞作用がなくて収れん効果のみであり、使用感は良好だが、制汗効果は弱い.(→デオドラント化粧品)
製品としては、スプレー、スティック、ローション、ロールオンなどがある.内容物は制汗成分、清涼感を与える成分、体臭をおさえる成分などを溶解または分散させたものである.
(1)制汗スティック(stick type deodor-ant)
スティック状の制汗剤.処方は、アルコールに発汗をおさえる成分を溶解させ、これをステアリン酸ソーダなどの石けんで固めたもので、さっぱりとした使用性である.アルコールが揮発するため、揮発しないように容器の工夫がなされている.
(2)制汗防臭スプレー(deodorant spray)
制汗、防臭を目的としたスプレータイプの製品.塗布後短時間で乾燥するように、液化石油ガス(LPG)で内容成分を噴出できるように設計されている.短時間に簡単に塗布でき、比較的乾燥が速いという長所があるものの、適用部位以外にも内容物が付着しやすいという欠点もある.内容成分は粉体、油溶性成分などの有効性成分を配合することができる.発汗をおさえる成分、汗成分などを吸収する粉体、臭い成分を吸着・吸収する成分、分泌物から臭い成分に酸化・分解する菌の抑制剤、抗菌剤、エタノール、メントールなどの清涼感を出すもの、臭いをマスキングする香料などが使用されている.
(3)制汗ローション(deodorant lotion)
制汗、防臭を目的としたローションタイプの化粧品.水溶性成分、油溶性成分、発汗をおさえる成分、粉体など、幅広く多様な活性成分を配合できる特徴を有する基材としてアルコール水溶液が使用されるが、水を多くすると乾燥しにくくなる.ローションタイプのため、内容物を塗布するために容器の工夫が必要である.ポンプ式の容器に入れ、スプレーして使用する場合もある.
(4)ロールオン制汗剤(roll on type deo-dorant)
容器の頭部に回転するボールがついている特殊な容器に入っている制汗剤.容器頭部を皮膚にこすりつけながら動かすと、このボールが回り内容物を塗布できるしくみになっていて、適用部位のみに塗布できる特徴がある.(近亮、田端勇仁)

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