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脂腺 [sebaceous gland]

皮脂を産生する外分泌腺で、毛包上部、表皮および粘膜に直接開口している.皮脂腺ともいう.構成する細胞は、脂腺細胞と皮脂腺導管細胞の2種からなっている.
合成される脂質
脂腺細胞で合成される脂質成分は、トリグリセリド、スクワレン、ワックスエステル、コレステロール、コレステロールエステルである.これらの脂質成分のうち、トリグリセリドは脂腺から皮表に分泌される過程で分解されるため、皮表ではトリグリセリドのほか、その分解産物であるジグリセリド、モノグリセリドおよび遊離脂肪酸が共存する.
分布
手のひらならびに足底を除く全身の皮膚と一部の粘膜に分布しており、皮膚に存在する脂腺は毛包に付属している.頭部、前額、眉間、鼻翼、鼻唇溝、頤(おとがい)、胸骨部、肩甲骨間部、外陰部、臍(へそ)周囲などに分布する脂腺はよく発達し皮脂産生量も多い.これらの部位を脂漏部位とよぶ.また表皮に直接開口する独立脂腺は、口唇、乳輪、肛門、眼瞼(がんけん)などに分布している.
脂腺細胞の特徴
脂腺細胞と皮脂腺導管細胞の2種からなっており、脂腺の小葉を構成する主要細胞が脂腺細胞である.小葉辺縁の扁平な周辺細胞は脂腺細胞の母細胞で、その細胞の分裂によって生まれた細胞は、脂腺導管開口部に向かって移動しながらしだいに細胞質内に脂質滴を産生する.これを脂腺細胞の分化といい、分化した細胞の細胞質のゴルジ装置および滑面小胞体はよく発達し、量も多いが、ケラチン線維は少ない.また脂腺導管開口部に至った脂腺細胞は脂質滴で満たされ、さらに細胞が崩壊して脂質が細胞成分とともに導管へと分泌される.この脂腺細胞に特徴的な分泌を全分泌という.なお、脂腺導管部は毛包漏斗部につながっていて、分泌された皮脂は毛包へ移動し、貯留され、あるいは皮表へ排出される.
脂腺と毛包
皮膚は脂腺と毛包がかならず共存する.頭や男性の顎(あご)では脂腺は大きく、毛包もよく発達して硬毛を形成するが、四肢や体幹の軟毛部では毛包、脂腺ともに小さい.一方、脂漏部位のうち額、頬や前胸部では、思春期以降脂腺は非常に発達し大きくなるが、毛包管は小さく毛も産毛様である.このような毛包を脂腺性毛包という.毛包管は薄く、毛包内腔は広いため皮脂が貯留しやすい構造である.そのため、面皰*(めんぽう)、にきびができやすくなっている.
脂腺に影響する因子
脂腺がいくつかの内分泌因子(ホルモン)によって支配されていることはよく知られている.脂腺に影響する内分泌因子には、脳下垂体、副腎皮質、性腺などで生成されるホルモンがあり、脂腺に対するホルモン支配は複雑である.
(1)男性ホルモン(アンドロゲン)
脂腺を支配するホルモンのうちでもっとも重要である.一般に男性ホルモンは、脂腺の大きさ、細胞分裂、皮脂産生を増加させ、その結果として皮脂分泌を亢進させる.このような作用により、新生児期と思春期から皮脂分泌が活発となる.そして男性は80歳くらいまで皮脂分泌はつづく.一方、女性では30歳代から徐々に減少してくる.
(2)女性ホルモン
卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)がある.エストロゲンは男性ホルモンとは対称的に、脂腺の活性に対して抑制的に作用する.また、黄体ホルモンについては、その脂腺に対する作用についての意見の一致を見ていないが、脂腺の活動に対して促進的に作用するとの考えが多い.
(3)副腎皮質ホルモン
男性では抑制的に、女性では促進的に働くと考えられるが、これはコルチゾールによる性ホルモンへの作用を経た間接的な作用と考えられている.培養した脂腺細胞への直接作用としては、脂腺細胞の増殖を促進するとされている.
(4)甲状腺ホルモン
甲状腺ホルモンの作用もいくつかわかってきており、甲状腺ホルモンがテストステロンの脂腺活性化作用を抑制するとの報告がある.その一方、甲状腺摘出により皮脂に分泌が減少するとも報告されている.
(5)インスリン
脂腺細胞への直接的な影響として細胞培養系において、インスリンは細胞増殖を促進するが皮脂合成には抑制的に働くとの報告がある.
(6)脳下垂体ホルモン
脂腺機能維持に重要であり、副腎皮質刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、メラノサイト刺激ホルモンが具体的にあげられる.脳下垂体の機能低下は皮脂分泌の低下につながるとされている.副腎皮質刺激ホルモンは、副腎皮質からの男性ホルモンなど種々のホルモンの分泌を亢進させることにより、間接的に脂腺に影響を及ぼしていると考えられており、性腺刺激ホルモンは性腺を介して間接的に脂腺の機能に影響を及ぼしているが、その作用は男女で異なるといわれている.また、成長ホルモンは脂腺に対して促進的に影響すると考えられており、甲状腺刺激ホルモンは、甲状腺ホルモンの分泌を亢進させることにより、間接的に脂腺に影響を及ぼすとされ、さらにメラノサイト刺激ホルモン(MSH)のうち、α-MSHは脂腺の男性ホルモンに対する感受性を増強するといわれている.(北村謙始)

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