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ヘアカラー [hair color]

毛髪を着色するものの総称.染毛剤、染毛料ともいう.毛髪を着色するという、いわゆる染毛の歴史は古く、紀元前3000年のエジプト時代にヘンナという植物を用いた染毛の例がある.日本では明治の中期まで鉄とタンニンを用いたお歯黒*が白髪染めとして用いられていた.毛髪を着色する目的は、①白髪を目立たなくする(白髪隠し、白髪染め)、②毛髪の色にバリエーションをもたせる(ファッションカラー、おしゃれ染め)ことが考えられる.日本においては前者が一般的であったが、1990年代中ごろからの若者を中心としたいわゆる茶髪(ちゃぱつ)ブームを発端として、後者も広く定着するようになった.ヘアカラーにはさまざまなタイプのものがあるが、染色堅ろう性や染色メカニズムから、永久染毛剤(酸化染毛剤)、半永久染毛料(酸性染毛料)、一時染毛料(毛髪着色料)に大別される(表).
永久染毛剤
酸化染毛剤、ヘアダイともよばれ、薬事規制上は“染毛剤(医薬部外品)”に該当する.もともと米国で発展し普及したもので、現在でも市場で大きな割合を占めている.現在多くの酸化染毛剤に酸化染料として使用されているパラフェニレンジアミン(PPD)は1863年ドイツのHofmanにより発見され、1888年フランスのMonnetによってヘアカラーとして商品化された.この技術は明治40年代に日本に導入されたがPPDを空気酸化させて発色させるため、当事は染色に2〜3時間かかっていた.大正時代になるとPPD溶液を過酸化水素で酸化発色させる白髪染めが現れ、染色時間を一挙に20〜30分と短縮することが可能となった.その後技術的に大きな進歩はなかったが、昭和40年代(1965)に入りPPDにアミノフェノールなどのカップラー(調色剤)を共存させアンモニアを配合した染料溶液と過酸化水素溶液からなるヘアカラーが出始めた.これは、現在の2液式ヘアカラーの基礎となるもので、これによりそれまで黒のみだった白髪染めの色が、自然な褐色や栗色など種々の色がつくり出せるようになった.さらにアンモニアと過酸化水素の作用で染毛と同時にブリーチ(脱色)もできるため、明るい仕上がりが可能となったのである.酸化染料には先のPPDに代表される、反応の核となる染料中間体と染料中間体との組み合わせで種々の色調をつくることができるカップラー、そして自身が色をもつ直接染料がある(図1).酸化染毛剤は、酸化染料が毛髪内に浸透して酸化重合により生成された不溶性色素が毛髪に定着するため、染まりがよく色もちもよい.しかし反面、毛髪に対する作用が強く、使用にあたっての注意が必要である.また、酸化染料によってはアレルギー(感作)を起こすものもあり、使用前にパッチテストを行うことが義務づけられている.
半永久染毛料
酸性染毛料、酸性ヘアカラー、ヘアマニキュアとよばれるものが一般的である.おもにアゾ系の酸性染料が着色剤として用いられ、染色性を高める目的で染色助剤としてベンジルアルコールが配合されている.酸性染料の例を図2に示した.これらは、pHが低くなるほど染色性がよいことから、クエン酸などでpHを毛髪の等電点以下の酸性側に調整されている.染色メカニズムは、酸性側でプラスの電荷をもつ毛髪ケラチンタンパク質のアミノ基と、マイナスの電荷をもつスルホン酸基を有した酸性染料とのイオン結合により着色すると考えられる.染着部位は毛髪の表面付近であるため、シャンプーのたびに徐々に色落ちし色もちは比較的短いが、酸化染毛剤のようなアレルギーの心配がなく、毛髪へ与えるダメージも少ないため使用しやすいというメリットもある.なお、酸性染毛料の染色性を調整し、数回の使用で徐々に髪が染まるように設計されたカラーリンスもこの項に分類される.半永久染毛料には、染色性に優れる前記の酸性染料を用いる以外に、塩基性染料や非イオン性のニトロ化合物に代表されるHC染料を用いることが検討されている.これらは、酸性染料に比べて染色性にやや劣るものの、それぞれ塩基性、中性では発色が向上し、酸性染料に比べて皮膚への汚着が少ないことが長所としてあげられている.今後、安全性の確認がなされれば半永久染毛料への使用が拡大される可能性がある.
一時染毛料
毛髪の表面を着色剤で被覆する染毛料.用いられる色材(着色剤)はカーボンブラックや着色顔料が主で、酸性染料が用いられる場合もある.さらに着色剤を毛髪表面に固着する目的で、樹脂や固形油分が用いられる.着色部位は毛髪の表面に限られるため染色堅ろう性は悪いが、逆にシャンプーで簡単に洗い流せる、一時的に髪色を変えるのに適しているなどのメリットがあり、生え際などの白髪隠し(リタッチ)や、部分的に髪に色をつける(メッシュ)のに適している.剤形は使用部位や使用目的により、マスカラタイプ、マジックペンタイプ、ヘアスティックタイプからスプレータイプ(カラースプレー)、ヘアワックスタイプなどさまざまである.
皮膚障害(skin damage)
ヘアカラーによる皮膚障害で問題になるのは、おもに酸化染料を使用したタイプで、酸化染料であるp-フェニレンジアミンなどのアミン類は皮膚障害の原因になりやすい.また、アンモニア、過酸化水素(→フリーラジカル)なども使用しているため、安全性のチェックは十分に行わなければならない.ゆえに酸化染毛剤の使用者は、使用前にかならずパッチテストを実施し、酸化染料によるアレルギー反応の有無などの安全性を確かめる必要がある.
毛髪の損傷(hair damage caused)
永久染毛剤は、主要成分として酸化染料、アルカリ剤、過酸化水素からなりたっており、これら成分の化学反応によって染毛と脱色が同時に行われている.これらの化学反応は、染料の酸化とメラニン色素の脱色にとどまらず、毛髪の内部にも影響を及ぼし、毛髪内部の細胞膜複合体やタンパク質の溶出、ケラチンタンパク質の酸化が起こっている.そのため、毛皮質が備える毛髪の水分を保持する機能が損なわれ、毛髪のパサつき、はり、こしがなくなる、ヘアスタイルのもちが悪くなるといった問題が生じる.また、毛髪表面の紋理も変化し、キューティクル(毛小皮)が剥離して毛皮質がむき出しになるなど、毛髪の光沢がなくなり弾力や張力が低下する.こうした損傷は、染毛の過度な施術や、繰り返しの染毛処理を行うたびに進行し(図3)、枝毛や切れ毛の発生などの原因となる.このような現象を防ぐためには、毛髪の状態をよく調べ施術時(染毛時)の条件を考えることが大切である.また、施術後はトリートメントなどによりアフターケアを十分に行い、毛髪をよい状態に保つことが必要である.(小川朋康、神戸哲也、杉本憲一)

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