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リオトロピック液晶 [lyotropic liquid crystal]

固体である結晶の分子配列の秩序を維持しながら液体としての流動性を示すものを液晶とよぶが、界面活性剤や極性脂質など、分子内に親水性の部分と親油性の部分をあわせもつ両親媒性分子に溶媒(おもに水)を添加することにより得られる液晶のこと.一般に固体状態にある両親媒性の化合物は、親水基および親油基(疎水基)どうしが向きあった結晶構造をとる.すなわち親油基の分子は規則的に配列して分子の大きさレベルの結晶構造(短周期)を保っていると同時に、親水基の分子も水素結合により分子全体としても配列の規則性(長周期)を維持している(図1(a)).これに対してリオトロピック液晶では、結晶と同様長周期構造を維持しながら、疎水部が熱運動により規則性をもたず液体状態となっている(図1(b)).リオトロピック液晶の状態と構造はX線解析により確認される.液晶のX線回折像の特徴は、小角領域(約10°以下の回折角で数十〜数百Å(オングストローム)大きさレベルの情報が得られる)に液晶の規則的な構造に対応する鋭いピークが得られ、広角領域(約10°以上の回折角で数Åの情報が得られる)には液状のアルキル鎖を示す緩慢なピーク(ハロー:halo)が4.5Å付近に得られる(図2).小角X線回折のピーク位置から算出される面間隔の比から液晶の構造が決定されるが、偏光顕微鏡観察で見られる光学組織像からも液晶構造が推定できる(表).液晶構造としては、円筒状の会合体が六方晶系を形成するヘキサゴナル、層状のラメラ、水を円筒内部に取り込み親油部を外に向けた逆ヘキサゴナル、球状のミセルが水(あるいは油)連続相中で立方晶を形成するキュービックや脂質2重層が三次元的に連なった曲面をつくる両連続のキュービックがある.形成されるリオトロピック液晶の種類は、分子の親水性-親油性バランス、あるいは分子形状により異なる.親水性の強い両親媒性分子では、濃度が低いときはミセル溶液となっているが、濃度を高めることによりヘキサゴナル液晶→(キュービック液晶)→ラメラ液晶へと変化(相転移)する傾向にある.親油性が強い分子や親油基が2本の二鎖型の両親媒性分子では、低濃度から同心球状のラメラ液晶が分散した状態が見られ、濃度の増加とともに系全体がラメラ液晶へと変化する.さらに、親油性が強い分子では、親油基を外に向けた逆ヘキサゴナル液晶が形成される.こうした会合構造の変化は、相図(相平衡図)により表される.図3(a)は親水性の強い脂肪酸石けん(パルミチン酸カリウム)-水系の相平衡図である.低濃度では、ミセル溶液となっているが、濃度の増加に伴いヘキサゴナル液晶(ミドル相)→ラメラ液晶(ニート相)→水和固体相へと変化する.図でTCという記号で示した実線はゲル-液晶転移点(クラフト点)とよばれ、結晶から液晶あるいは結晶からミセルへの相転移が生じる温度である.脂肪酸石けんに比べて親水性の低い2鎖型の両親媒性分子の卵黄レシチン(図3(b))やジアルキルアンモニウム塩では、ミセルやヘキサゴナル液晶は形成されず、ラメラ液晶が相平衡図の多くの部分を占める.かさの高い親油基をもつモノグリセリドやイソステアリルグリセリルエーテルなどの分岐アルキルグリセリルエーテルでは、逆ヘキサゴナル液晶が形成される(図3(c)).(鈴木敏幸)

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