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レチノイン酸 [retinoic acid]
分子量300.4のレチノールの代謝物で、立体配座の異なる全trans-レチノイン酸(ATRA)、13-cis-レチノイン酸、9-cis-レチノイン酸などの異性体が存在する.いずれも発生や細胞の分化など多様な生理活性を示すが、これは生体内に存在する数種類のレチノイン酸レセプターとよばれる特定のタンパク質を介して作用するので、レセプターの分布や発現時期により生理活性が制御されている.全trans-レチノイン酸は別名トレチノインともよばれ、概してこれらの異性体の中でもっとも活性が高い.同様の作用を有する誘導体が各種合成され、それらを総称してレチノイドとよぶ.レチノイドの皮膚における生理作用としては、角層剥離作用によるターンオーバーの促進、ケラチノサイト(表皮角化細胞)の増殖促進および分化誘導による表皮肥厚、真皮の線維芽細胞のコラーゲン線維産生促進、また皮脂腺機能の抑制による皮脂の分泌低下などがよく知られている.さらには上記のケラチノサイト増殖とターンオーバーに伴い、表皮基底層周囲に存在するメラニン顆粒を排出して色素沈着を改善するとも考えられている.こうした作用から、米国ではトレチノインのクリームまたはジェル製剤が、にきびやしわの治療薬として使用されているが、日本国内では認可されていない.また、米国においても催奇形性のおそれがあることから妊産婦への投与は危惧されている.(江浜律子)