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β-カロテン [b-carotene]

炭化水素系カロテノイドの一種で、β-カロチンともよばれる.分子内にイソプレン鎖による二重結合を九つもち、シス体とトランス体の異性体が存在するが、天然のものはトランス体がほとんどである.単離したものは赤紫から濃紫色の六方晶系柱状結晶、または板状結晶である.水やグリセリンプロピレングリコールに溶けないが、エタノールやメタノールにわずかに溶け、エーテル、油脂類に比較的溶ける.これらの溶液は、450〜500 nm付近に吸収極大(ヘキサン中で452 nmおよび478 nm、クロロホルム中で466 nmおよび497 nm)をもち、黄色〜赤色を呈する.空気中の酸素で酸化されやすく不安定な物質であり、さらに熱や光によって酸化が促進されるため、保管には酸素との接触を抑制するなどの注意が必要であるが、油脂類中に溶解した状態では安定性が向上する傾向にある.また、弱アルカリ条件では比較的安定である.β-カロテンはプロビタミンAの一種であり、動物の体内で酵素的に酸化分解され、レチナールやレチノールレチノイン酸などのビタミンA類に変換される.プロビタミンAにはほかにα-カロテン、γ-カロテンなどがあるが、β-カロテンはこれらの中でももっとも高い生理活性を有している.ビタミンA群の生理作用は、網膜の視細胞の光受容機構に関与しており、ビタミンAが不足すると夜盲になることが知られている.聴覚や生殖などの機能の保持、がんや心疾患などに対する予防的作用もある.また、皮膚や粘膜の正常構造および機能を維持する上でも不可欠で、ビタミンAの不足は、上皮の角化促進、皮膚の異常乾燥、色素沈着などを引き起こす.β-カロテンの皮膚に対する生理作用は、レチノイン酸がレチノールに比べて高いことが知られている.化粧品分野での用途は、製剤を着色するために用いられる天然色素としての利用のほか、抗酸化作用についても知られており、光照射後の皮膚中の過酸化物の生成を抑制する作用も認められている.ニンジンの根に含まれる色素物質としてよく知られており、キャロットオイルより抽出、単離精製され、その構造が明らかになった.その後、1950年代に合成法が確立されると、植物から抽出するのに比べて経済的に優れることから合成品が主流となった.しかし最近では、パームや藻類であるデュナリエラから得られる油性成分中に多く含まれることが明らかになり、比較的容易に抽出、精製できることから、これらの天然由来のものの入手もさほど難しいことではなくなった.(小出倫正)

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