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角層バリア [barrier function of the stratum corneum]

角層の生理機能の一つ.約70%とされる生体内の水分の蒸散や体内成分の喪失を制御するとともに、体外の異物(化学物質、微生物など)の生体内への侵入を防ぐ機能をさしていう.角層バリア機能ともいう.角層バリアの機能低下は、皮膚への刺激物質の侵入を容易にし、炎症反応を引き起こし、肌荒れなどのトラブルを誘発する.火傷を負った場合には角層バリアが著しく破壊されるため、その受傷部位の面積や損傷の度合によっては、脱水症状あるいは生体に侵入した微生物が産生する毒素などにより、生命の維持が脅かされる場合もある.測定角層バリアの測定は、経表皮水分蒸散量(TEWL)という体内から体外への水分の蒸散量によって測定する場合が多く、専用の測定機器も市販されている.機器によるTEWLの測定は、皮膚を傷つけず(非侵襲的)に行えるため、生体レベルでの測定法として汎用される.肌荒れを起こして角層バリアが損なわれていれば、TEWLが高値を示す.反対に肌荒れを改善して角層バリア機能が高まると、TEWLは低値になる.このことを応用して、化粧品の有用性評価においても、TEWLの測定結果は重宝されている.また、ある薬物の体外から皮膚内への浸透によっても角層バリアの機能を評価することができる.一般には親水性物質は角層を透過しにくいが、角層バリアの機能が低下した場合には透過しやすくなり、その透過量から角層バリアの測定に応用される場合がある.角層バリアと経皮吸収角層が外界からの物質のバリアとして機能するので、薬物を塗布して経皮適用によって吸収させるさいには、角層の透過が律速段階になっている場合が多い(→経皮吸収).角層バリアの生理的機能を乱さずに薬物を経皮吸収させるためには、角層を通過しやすい誘導体を塗布する、あるいは薬物を塗布する剤形を工夫する、その薬物の性質に合わせて角層の性状を変化させる、などさまざまな工夫が必要となる.メカニズム角層バリアでは、角層細胞間脂質が重要な役割を果たしている.すなわち、角層細胞間脂質の量的変化あるいは質的な組成変化などは、ラメラ構造の構築に変化をもたらし、その働きに影響する.日常的な場面では、洗剤によって角層細胞間脂質が部分的に除去されたり、紫外線照射によって表皮の機能が影響を受け角層細胞間脂質の生合成が低下したりすると、角層バリア機能は低下し、表皮は外界の刺激にさらされるため皮膚にさまざまな悪影響が生じてしまう.角層の層数も、また角層バリア機能に大きく影響する.一般には角層肥厚した皮膚ではバリア機能は高いとされる.逆に角層が比較的薄い顔面はバリア機能が低く、経表皮水分蒸散量も高値を示す.恒常性有機溶剤や洗剤による角層細胞間脂質の除去、あるいはテープストリッピングなどの物理的な手法によって角層バリア機能を破壊すると、もとに戻そうという反応が表皮において起こる.この現象をバリア回復といい、皮膚がもっているホメオスタシス(恒常性維持機能)の一つである.具体的には、角層細胞間脂質の生合成にかかわる酵素の発現が高まり、顆粒細胞の層板顆粒(ラメラ顆粒)から角層細胞間への脂質の分泌も亢進するということである.このバリア回復の過程を促進すると、バリア機能低下の影響が緩和されて表皮に伝えられる刺激も緩和されるため、肌荒れなどのトラブルも減弱される.バリア回復の働きは、内分泌系神経系など全身の体調によって影響を受け、ストレスなどによって低下する.ストレスによって肌状態が悪くなることはしばしば経験されるが、バリア回復機能の低下はその原因の一つとして考えられている.強化低下した角層バリア機能を改善することは、皮膚を健やかに保つために重要で、さまざまなスキンケアによって可能である.代表的なアプローチとして次の三つがあげられる.(1)物理的にバリアを補う方法角層の表層の水分は深層に比べて低いが(→角層水分量)、ワセリンなど水分透過性の低い油性基材の塗布(閉塞)によって生体内部からの水分蒸散が抑制され、結果的には見掛け上バリア機能が高まる.その効果を閉塞効果(オクルージョン効果)という.(2)擬似バリアを形成させる方法角層細胞間脂質に類似した成分を塗布して改善をはかるもの.閉塞効果に類似しているが、この方法ではたんなる閉塞性ではなく、角層細胞間脂質の働きを代替することが期待される.(3)角層バリアの形成を促す方法皮膚に元来備わる機能である角層細胞間脂質の生合成や分泌を活性化して、角層バリア形成を促進することで、バリア機能を正常化することができる.(平尾哲二)

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