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自然老化 [intrinsic aging]

腹部や臀部(でんぶ)などの日光にほとんどさらされることのない被覆部の皮膚に生じる加齢変化.クロノロジカルエイジングともいう.これに対して、日光にさらされ紫外線の影響などを受けて起きる顔面などの皮膚の変化は、光老化といわれる.自然老化と光老化では、皮膚の性状や内部の組織変化は大きく異なっている.加齢変化に伴う自然老化では、機能低下と萎縮性の変化が特徴的であり、皮膚においての具体例は細胞数の減少や細胞活性の低下や皮膚厚の低下などである.これらは、遺伝的な素因や内分泌の変化など加齢に伴う種々の細胞機能低下に起因している.
角層バリア機能の変化
角層のもっとも重要な役割は、外界と生体を隔てるバリアであること、すなわち外界からの異物の侵入や生体からの水分の蒸散などを防ぐことにある.この機能の指標の一つとして皮膚表面から蒸散する水分量、すなわち経皮水分蒸散量*(TEWL)がある.自然老化皮膚でもTEWLは若年者と同程度であるが、角層を粘着テープではがしてバリア機能を傷つけるとその回復の遅延が起こる.なんらかの刺激で角層バリア破壊が起こった場合、老化皮膚ではバリア回復が遅くなり、ほかの障害が誘発されたり、増悪したりするというわけである.
水分保持機能の変化
老化皮膚に広く認められる皮膚変化の一つに乾燥症状があるが、皮膚表面の乾燥状態は角層の水分含有量と密接な関係がある.角層の保湿機能には表皮顆粒層のフィラグリン分解に由来する、アミノ酸を中心とする天然保湿因子(NMF)が重要な役割を担っているが、老化するとNMFの低下とその結果として角層水分量が低下するために老化皮膚での乾燥症状が起こる.老人性乾皮症も同様の原因で生じる.
皮脂分泌機能の変化
皮脂腺の活動はホルモン、とくに性ホルモンの影響が大きい.そのため、皮脂分泌は男性と女性で異なり、皮脂分泌量は男性では緩やかに減少するのに対して、女性では40歳代から大きく減少してくる.これは、男性ホルモンの血中濃度の変化とよく対応している.
表皮の変化
新しい角層をつくり出している表皮では基底細胞の増殖能が低下し、その結果、表皮層は薄くなり(表皮萎縮*)、角層が新しく置き換わるのに要する時間、いわゆるターンオーバー時間も長くなる.また、メラノサイトの数が減少し、メラノソーム産生が不全となってくる.なお、ランゲルハンス細胞の機能は正常であるが、細胞数の低下が知られている.
真皮の変化
線維芽細胞の増殖機能は低下し、コラーゲン線維(膠原線維)などの細胞外マトリックス成分の合成能力も低下する.その結果、真皮乳頭層は消失し、網状層のコラーゲン線維は不均一で配向性がなくなる.エラスチン線維(弾性線維)は正常であるが乳頭層の消失に伴いオキシタラン線維も消失し、またヒアルロン酸を主体とするグリコサミノグリカンも減少してくる.その結果、真皮の萎縮性の変化(真皮萎縮)が起こり、はりのない皮膚になってくる.
皮膚血流の変化
皮膚の自然老化に伴い、毛細血管の減少や消失が観察され、血管の不規則な拡張も認められる.とくに、表皮真皮接合部*の平坦化とともに、乳頭層の減少で毛細血管の消失や乱れが生じるようになり、これが血流低下の一因となっている.このような微小循環系の虚血状態や毛細血管の減少は、表皮や真皮への栄養、内分泌因子の補給などの低下につながり、細胞機能の低下の要因となる.
更年期後の女性の皮膚変化
閉経に伴う女性ホルモンの大きな減少は、女性皮膚の自然老化の重要な要因である.ヒトケラチノサイトや線維芽細胞には卵胞ホルモン受容体が確認されていることから、皮膚もそのターゲットといえる.更年期後の女性の皮膚におけるコラーゲン線維の減少は顕著で、毎年2%ずつ減少しているといわれている.それに伴って皮膚の保湿性、弾力性の低下やしわの増加、さらには皮膚のくすみなどが顕著に現れてくる.(西山敏夫)

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