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肌色補正 [skin color correction]

くすみ色むらなど肌のもつさまざまな欠点を均一に調整し、美しい仕上がり状態を実現すること.ファンデーションなどのメークアップ化粧品の仕上がりを考える上で非常に重視される点である.“色白は七難隠す”といわれるように、日本人は伝統的に白い肌を好む傾向にあるが、肌を美しく装うことは万人に共通する願望である.したがって、化粧の最終仕上げとして肌をより自然に美しく見せるファンデーションには本来の美的役割が大きく、またポイントメークアップ化粧品と組み合わせることで、より高度なメークアップ効果をあげることが求められてきている.なお、肌色補正の手法は、①色効果による肌色補正、②光効果による補正、③化粧料基剤による補正に大別される.
色効果による肌色補正
化粧肌(化粧を施した肌)に透明感を与えることは、化粧品による仕上がり効果を考える上で非常に重要である.一般に透明感のある素肌の分光反射率曲線*は、メラニン色素やヘモグロビン由来の素肌に固有の吸収が見られる.しかし透明感が乏しい肌の分光反射率曲線には、このような吸収が見られなくなってくる(図).そこで化粧肌の分光反射率曲線を本来の透明感のある肌のそれに近づけるため、種々の手法が用いられる.長波長部分の補正には、ベニバナ色素のような高彩度の顔料や、赤色の反射干渉光を有するパール剤が利用される.また、中波長領域の補正には、青色や緑色の色材やパール剤、青色に発光する粉体などを適宜用いることで対応できる.
光効果による補正
(1)光散乱効果による補正
しみ、そばかすなどの肌表面の欠点を隠ぺいするには、通常、二酸化チタン酸化亜鉛のような屈折率の高い粉体が用いられる.しかし、この手法では厚ぼったく不自然な仕上がりとなってしまう.そこで球状粉体のような入射光を他方向へ散乱させるデフォーカス効果のある粉体を用いると、すりガラス越しに見るようにふんわりとぼかすことができ自然に欠点を隠すことが可能となる.
(2)正反射光による補正
マイカやパール剤などの入射光を正反射方向へ強く反射させる効果の板状粉体を用いると、それらのフリップフロップ効果により、つやがあり立体感や奥行き感のある仕上がりが得られる.
(3)フォトクロミック効果による補正
光照射量の多い場所で起こる化粧肌の白浮き現象に有効なのがフォトクロミック効果である.二酸化チタンや酸化鉄焼結粉体はこのフォトクロミック効果があり、光照射の強いところでは適度に明度が低下して白浮き現象を防ぐことができる.また、最近では明度だけでなく色相も変化するフォトクロミック粉体(フォトクロミックパール剤、フォトクロミック顔料)も開発されており、さまざまな光環境下でも自然なメークアップが実現できるようになっている.
(4)パール剤による補正
パール剤は基板となるマイカと表面に被覆された酸化チタン層との光干渉効果により、反射干渉光および透過干渉光が発生する.この反射干渉光による発色効果を用いることで色補正を行うことができる.肌の透明感を上げるために酸化鉄のような色材を用いる方法もあるが、色材を用いると減法混色が起こり明度が低下してしまう.一方、パール剤の反射干渉光を利用すれば、加法混色により明度は上がるので、より適切に色補正を行うことができる.くすみや色むらなどの補正にもパール剤が用いられる.パール剤の反射干渉光は背景の明度が低いほど強く発色する性質をもつ.この特性を利用すると、くすみや色むらなど肌の明度が低い部分で選択的に発色させることができ、均一な肌色補正が行われる.パール剤は黄、赤、青、緑などのさまざまな色の反射干渉光を発するので、補正用途に合わせて適宜用いられている.しかしながらこのような有用性をもつパール剤も、多量に用いるとパール剤のもつきらつきや白色の散乱光が問題となってくる.そこで近年はパール剤表面を微粒子の酸化鉄で被覆した微粒子酸化鉄被覆パール剤が試みられている.酸化鉄の光吸収で白色散乱をおさえることができ、さらにこの酸化鉄が微粒子であることでパール剤本来の反射干渉光を損ねることがないという画期的な開発である.この微粒子酸化鉄被覆パール剤を用いると、重篤な色むらである大田母斑に対して有効なメークアップを施すことができる.従来は大田母斑由来の青色光を消すために、青色の補色である赤や黄の高彩度色材を用いていたが、色材どうしの減法混色が起きるため明度が低下してくすみが残り、自然なメークアップには有効でなかった.その点、微粒子酸化鉄被覆パール剤は加法混色の原理を応用して自然なメークアップになるように設計されている.加法混色では色光は補色の関係にある色光、たとえば青色光は黄色光、赤色光は緑色光と混合されると透明(白色光)となることから、大田母斑の青色光を消そうという考え方である.同様の考え方で、赤みを有する血管腫補正用に開発されたのが、緑色の透過干渉光を有するパール剤である(→総論図9.6).
(5)発光粉体による補正
白色顔料として用いられる酸化亜鉛は、適正条件で還元させることによって紫外線を吸収し青緑色に発光することが知られている.この発光酸化亜鉛を用いることで中波長領域の分光反射率曲線を補正し、透明感を上げることができる.発光特性を利用したものにはベニバナ色素を色材として用いる手法もある.
化粧料基剤による補正
メークアップ化粧品にはさまざまな基剤があり、求められる使用感触や仕上がりによって使い分けられている.顔全体を仕上げるファンデーション類でもっとも汎用性の高い固形タイプの中でも、油分の少ないパウダータイプから油分が多い油性タイプまで種々存在する.パウダーファンデーションは配合される粉末量が多く、仕上がりも比較的マットなものが多い.肌表面に粉末が多く存在するので、球状粉末などの乱反射によるフォギー効果を発現しやすく、肌色を明るく均一に仕上げることができる.一方、油性タイプのファンデーションは組成中にろう(ワックス)が配合されていることから、肌への密着性が高く、毛穴や肌の凹部分を埋め込んで均一にする効果がある.球状粉末の光散乱効果と組み合わせることで、肌表面形態や色調も非常に均一に仕上げることができる.化粧下地として用いられるコントロールカラーは、通常肌に塗布しやすい乳化クリームタイプが多い.最終仕上げのファンデーションの下に塗布することで、ファンデーションの均一な付着状態を助けるとともに、肌色補正効果にも優れた基剤である.グリーンやブルーのコントロールカラーは肌の彩度を下げて明度を上げることで自然な透明感のある白い肌に見せる効果があり、ピンクのコントロールカラーは、加齢による黄み方向への色くすみを補正して血色をよくする効果がある.逆にイエローのコントロールカラーは、赤ら顔のような赤みのトラブルを補正することができ、赤みが消えにくいときは二酸化チタンなど隠ぺい効果の高い粉体を少量組み合わせることが効果的となる場合もある.なお、ほてりを消すには最後の仕上げにパウダータイプの白粉*(おしろい)などで重ねづけするとよい.(南孝司)

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