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美白剤 [whitening agent]

日焼けなどによるメラニンの生成を抑制し、その沈着を予防する効果のある成分(表).美白成分、ホワイトニング成分ともいう.日本においては、医薬部外品の主剤として有効性が認められた成分とそうではない成分が存在するが、非有効成分の場合は、有効成分と異なりその成分による“美白”訴求をすることはできない.もっとも研究されている美白剤は、メラニンの生成を抑制する作用がある成分で、なかでも、メラノサイト中でメラニン生成にかかわる酵素の働きをおさえる成分が多い.アルブチンコウジ酸エラグ酸、ルシノール*やクワエキス、当帰エキス、ワレモコウエキスなどの植物抽出物がこれにあたり、おもにチロシナーゼの活性を阻害する.アルブチンが、基質への競争阻害によりチロシナーゼ活性を阻害するのがおもな働きであるのに対し、コウジ酸やエラグ酸は、チロシナーゼが働くのに必要な銅を取り除く作用により美白効果を得ている.チロシナーゼ活性を直接阻害せずに、メラニンの生成反応を抑制する成分としては、油溶性甘草エキス、ビタミンC誘導体などがあげられ、油溶性甘草エキスはチロシナーゼ関連タンパク質(ドーパクロムトートメラーゼ)の活性を抑制する作用が報告されている.ビタミンC誘導体は、アスコルビン酸がドーパキノンからドーパクロムへの反応を抑制するほか、生成されたメラニンに作用して、有色の酸化型メラニンを無色の還元型メラニンに変える働きもあり、それらが複合して美白効果を上げていると考えられる.一方、メラニンの排出を促進する成分としては、リノール酸乳酸、グリコール酸など角層剥離作用がある成分があげられる.これらの角層ケア成分は、メラニン生成抑制成分と組み合わせて処方されることが多い.このように、美白成分はメラニン生成抑制を中心に、現在も新しい成分の開発が進められている.チロシナーゼ阻害効果がさらに高いエキスの開発や、メラニンの中でもしみに深く関与している黒色のユウメラニンだけを減らす働きのある小麦胚芽の研究もその一例である.また、皮膚科学の発達に伴い、近年、表皮のメラノサイト、ケラチノサイト(表皮角化細胞)、ランゲルハンス細胞などの細胞間の情報伝達系や皮膚に対するホルモン系が明らかになってきた.これを応用した新しい視点の美白、すなわちメラノサイトに対してメラニン生成刺激を抑制する美白成分の研究が進み、カミツレエキスやトラネキサム酸(t-AMCHA)などが新たに見出されている.さらには、より早い効果の発現を目指し、経皮吸収剤や吸収システムの開発、内服剤・サプリメントとの併用研究も盛んで、美白成分の研究はますます広がりを見せている.
美白剤評価法
美白剤の効果を評価する方法.チロシナーゼを用いた活性阻害を評価する方法、培養色素細胞を用いてメラニン生成抑制効果を評価する方法などがある.前者はチロシンまたはドーパを基質としてチロシーゼを作用させ、生成するメラニンの中間体であるドーパクロムの赤色を試験試料がどの程度抑制するかを475nmの吸光度の変化で測定する.アスコルビン酸(ビタミンC)などの還元作用のある試料はドーパキノンをドーパに還元する能力として測定されるが、試料の還元作用が消費されるとふたたびチロシナーゼ反応が進行する.この方法を用いると試験試料のチロシナーゼに対する作用が活性阻害(拮抗・非拮抗阻害)なのか、還元作用なのかを調べることができる.チロシナーゼはマッシュルーム、マウスB16メラノーマ細胞、ヒトメラノサイト由来のものが用いられる.一方、後者の培養メラノサイトを用いたメラニン生成抑制効果を調べる測定法には、扱いやすさからB16メラノーマ細胞がおもに用いられる.プレート上で試験試料添加培地およびコントロール培地で3日間培養後、細胞を回収して水酸化ナトリウム(NaOH)溶液などで処理した後、405 nmの吸光度の変化で測定し、また細胞数をカウントして細胞毒性を調べる.ヒトメラノサイトも市販されているので、同様に使用できる.また、細胞抽出液を電気泳動して、ドーパ染色法やウェスタンブロット法でチロシナーゼのアイソザイム活性やタンパク質の増減を調べることもできる.しみ・そばかすを防ぐには、チロシナーゼの活性を抑制するだけでなく、①紫外線により表皮に増加するプロスタグランジンなどのメディエーターを抑制し過剰なメラニン生成をおさえる、②メラニン中間体が重合して濃色のメラニンになる過程をおさえる、③メラニンのケラチノサイトへの分配をおさえる、④できたメラニンの分解を促進する、⑤表皮の新陳代謝を正常化してメラニンが表皮、とくに角層に停滞しないようにする、といったことも重要と考えられている.ヒトにおける美白効果の評価法としては、人工的に起こした日焼け後の色素沈着の防止または消退促進を調べる方法や、肝斑老人性色素斑に対する有効性試験などがある.(三部晶子、前田憲寿)

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